3-3 血雨の洗礼
縄を引きちぎり、素手で敵兵の喉を掻き切るギュイの瞳には、もはやかつての穏やかさはなく、ただ「汚された大地を血で清める」という獣の如き本能だけが宿っていた。
九人の部下たちは、初めて見る「父」の狂気に震えていたが、やがて自分も兵であることを思い出して、戦った方がいいのかなと思い始めた。しかし縄をかけられてる以上どうすることもできず、ただ仕方なく座っていた。不思議なことに、ギュイ隊長が猛り狂っていく間、隊員たちは冷静になっていった。敵兵の恐怖の表情がよく見えた。その心までありありと感じられた。
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老兵士は絶命しても剣を放さなかった。ギュイはその固まった指を折るようにして長剣をもぎ取り、敵将が跨がっている馬の首を叩き切り、腹を蹴って馬を倒した。こちらを狙っている弓兵にボルツの剣をぶん投げると、金色の鎧と白いマントを泥に濡らして横たわっている敵将の、首を掴み、老兵にしたように持ち上げた。
フィデリオの命はルフィーニ家家宝のゴージェットによって守られた。金色に輝く節板を繋ぎ合わせたゴージェットは、太陽の神の聖像を模して祖父が作らせたものだった。その喉鎧は、下顎から喉、鎖骨までを覆っている。美しい光沢は彼の領民の血で汚れてしまったが、緻密に重ねられ綴じ合わされた技によって、怒れるギュイの怪物じみた握力から、うら若き青年の白く柔らかな喉を守り切った。
しかし。それが何だというのだろう? このままでは時間の問題だった。
フィデリオの兵たちは武器を捨てて降伏した。




