4-1 うまいか?
敵兵は「若君」の助命を願い、ギュイ分隊の縄をほどき、自ら縄にかかった。
若君と呼ばれ、フィデリオ・ルフィーニと名乗った青年は、縄にかけられて地面に座ったまま、心ここにあらずといった様子だった。夢を見ているような物言いで、ギュイ隊長に問いかけた。
「罠だったのでしょうか?」
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第四話 泥餐の将
(沈黙して言わず 計謀に非ざると)
「罠だったのか」との問いにギュイは答えない。答えるまでもなく、この惨劇が計略であるはずはなかった。
(残汁を掬いて味わい 涙 双つながら流る)
彼はただ、鍋に残ったスープを指で掬って舐め、失われた「至福」を思って涙を流した。
(敵将を捕え来りて 汚土を食らわす)
敵の将を引きずり出し、スープの混じった汚れた土を無理やり食らわせた。
(五月雨深く 恨み未だ休まず)
降り続く五月の雨の音の中、ギュイ隊長の深い恨みはまだ癒えることはなかった。
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「うまいか?」
ギュイ・アンガスの目は昏かった。
うまいはずはない。土を詰められた口では答えられるはずもなかった。
しかし、その声の優しさにぞっとして、フィデリオは気がつくと頷いていた。何度も、何度も、何度も。
「そうか」
ギュイは嬉しそうに、血で濡れた大きな手に、煮込みの混ざった土を盛ると、フィデリオの口に押し当てた。
「なら、もっと食え」




