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2-3 命令遵守




 新兵テオは落胆した。

 ギュイ隊長は戦わず、あっさりと縄にかかった。

 雨の音を聴け、と言うわりに、これだけ多くの兵の接近にも隊長は気づかなかった。

 その上、敵に、鍋をすすめた。

 子供のような誇らしげな顔で、うまいぞ? と言った。

 この人はこれから自分や部下が殺されたり、ひどい目にあったりすることがわかってるんだろうか?

 ギュイ隊長は、隠し玉なんかじゃない。

 ただ普通の大人より「圧倒的に」、愚鈍なおじさんなだけだった。





 罠かな?


 フィデリオ・ルフィーニは、馬上で本日何度目かの警戒をした。

 隣に控えるのは、父の代から家政を支えてきた老兵のボルツ。残りの二十六名は、フィデリオの領地から徴募された、泥と垢の匂いの抜けない農民兵たちだ。

 家族と畑を里に残して従ってくれた彼らを、フィデリオは「誰も死なせずに」帰したかった。しかしすでに二人を失っていた。


 だからこそ、あの炊煙が怖かった。

 軍令違反の落伍者、ギュイ・アンガス。野蛮な荒くれ者なのだろう。また兵を失う予感がした。

 しかしその煙が立つ場所は自分達の持ち場だった。戦線を押し上げないといけない。フィデリオは覚悟を決めた。


 ところが、捕縛したギュイに戦意はなく、抵抗しなかった。それどころか「この鍋は食べていけ」と、親か友のように煮込みの鍋をすすめてきたのだ。


 「毒だろうか?……いや」


 フィデリオは見渡した。後ろ手に縛られて座っているギュイの部下たちの目は、この男は本当のことを言っているとか、この鍋がうまいのは間違いないとか、もし食わんなら俺たちが食うからとか、そういう訴えを投げてきた。


 辺りをうろついていた三名を捕らえた者の話では、三名が通った道々にはキノコが剥がされた跡があったそうだ。


 (……いい人たちなのだろうな)

 フィデリオは、同じ土の匂いがする彼らに親近感を覚えた。

 もし、自分がルフィーニの家名を背負っていなければ。彼らも敗残兵でなければ。

 「腹が減っているなら座れ」という言葉に、甘えてしまいたかった。


 だが、フィデリオは「理知的な将」として振る舞わねばならなかった。自分を信じてついてきた村の若者たちに、戦場の厳しさを教えねばならない。


 「毒がなくとも、敵の供物を食らうことは許さぬ。……それが兵の規律だ」

 フィデリオはギュイたちを殺したくなかった。捕縛して連れていく場合の手順を思い浮かべていた。だから兵に指示を仰がれたとき、その答えが少し雑になった。


 「若! じゃあ、この鍋は」

 「廃棄せよ」

 フィデリオを「若」と慕う一人の兵士が、役に立とうとして、フィデリオの命令に機敏に反応した。


 兵士はまだ火にかかっている香ばしい湯気の立つ鍋に、足をかけ、蹴り倒した。




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