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1-3 爪やすり




 (やってるなぁ……)


 高台に登った小隊長ジャック・カラスコは、戦線からはるか遠方に取り残された、ギュイ分隊のものと思われる炊煙に目を凝らした。

 部下にその方角とおおよその距離を記録するように指示を出すと、懐から愛用の爪やすりを取り出し、手入れをはじめる。「待ち時間」だ。


 ギュイの首が繋がっているのはひとえに彼の上官であるジャックが、同郷のよしみで彼をかばっているからにすぎない。

 今までは、なんとかごまかせていた。

 年上の偉そうな堅物たちをだまくらかすのは得意だった。

 あの手この手を使いきるのも性に合っていた。

 しかし限界も近い。

 戦況は悪くなっていた。

 その責任をギュイに負わせようなどと上層部も思ってるわけではないだろう。

 ただ、その首ひとつ晒して軍の規律を引き締められるなら安いものだ、くらいのことはいかにも考えていそうだった。


 悪いことに、ギュイ分隊には手柄という手柄がなかった。

 それを補えるほどのあまりある功績をジャック小隊が立てているわけでもなかった。

 おまけに、ジャックは若く、ただの郷士で、特別なコネもなかった。

 つまり、見せしめに殺せ、と言われて拒むことはできなかったし、その命令は今日にも下されそうだった。


 (あら、消えた……)


 右手の人差し指の爪を整え終えて、ふっと息を吹きかけたジャックは、先ほどまで上がっていた、薄白く細い煙がなくなっていることに気づいた。

 ジャックは、見習いの時にギュイの部隊にいたことがあり、彼が狩人風煮込みにかける途方もない時間と途方もない燃料について、よく知っている。

 雨は降りつづいている。しかし、この程度の雨で、「彼が」炊事を中止するだろうか?


 否、とジャックは判断した。




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