シーズン2第11話:ドラッグの黒幕
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第11話は、チートドラッグを巡る事件の深部――『ドラッグの黒幕』へと迫るエピソードです。
末端組織から回収したデータをもとに、製造拠点である地下工房へ潜入する由美さんと神様。そこで二人を待ち受けていたのは、かつて天界を追放され、人々の欲を食い物にする元・高位神の神官でした。
違法ビジネスで暴利を貪る黒幕に対し、由美さんの冷徹な「ロジックと監査」が冴え渡ります!
グランベル市警から提供された極秘データと、押収したマニュアルの解析結果をもとに、桃西由美と神様は商業都市の地下深くに張り巡らされた旧地下水路の奥へと足を踏み入れていた。
薄暗く湿った通路に、由美のヒールの音がコツン、コツンと規則正しく響く。
黒のパンツスーツには一切の汚れもなく、その右手には最新の環境計測器が握られていた。
『桃西さん……この先、すごく濃度の高い神威の残渣と、薬物の匂いが漂っているよ』
上空で周囲の光を覆うように気配を縮めていた神様が、か細い声で警告を発する。
「ええ。大気の成分分析結果からも、高濃度の神聖触媒と有機溶剤の反応が検出されています。ここがチートドラッグの『中央製造プラント』で間違いありません」
由美は足足を止め、暗闇の奥に佇む重厚な鉄扉を見据えた。
鍵は魔法的な封印で固く閉ざされていたが、由美が取り出したポータブルジャマー(空間波形乱調器)を一瞬押し当てるだけで、カチャリと呆気なく解除された。
「……セキュリティのアルゴリズムが、高位神界の初期型プロトコルと同じです。相手の正体が推測できますね」
扉の向こうに広がっていたのは、怪しげなフラスコや大型の蒸留プラントが所狭しと並ぶ、巨大な地下実験室だった。
その中央で、豪華な装飾が施された司祭服を纏った男が、虹色に輝く液体を満たした巨大なガラス槽を見上げて高笑いをあげていた。
「ハハハハ! 素晴らしい! これさえあれば、下等の人間どもはいくらでも我が『顧客』となり、我が富の泉となるのだ!」
「――無許可での薬品製造、ならびに危険物の不法投棄および不当利得行為。……監査に入ります」
暗闇から静かに響いた冷ややかな声に、男はハッと振り返った。
「な……誰だ貴様らは!? 我が聖域に無断で立ち入るとは!」
男の顔には、かつて天界に仕えていた証である光の刺青が刻まれていた。元・高位神官――『堕落のマルス』。
天界の権力闘争に敗れて地上へ追放された彼は、下界の治安を乱し、人々にチートドラッグを売りさばくことで莫大な財を成そうとしていたのだ。
『マルス……! 君は元高位神官の……! 天界を追放されたと聞いていたけれど、こんな犯罪に手を染めていたなんて!』
「ハッ、下位神の出来損ないか!」
マルスは蔑むような笑みを浮かべ、両手を広げた。
「落ちこぼれの分際で我のビジネスに口を挟むな! 我は神の秘術(神威)を人間どもに切り売りし、この都市の裏社会を支配する王となるのだ! たかが人間の女とポンコツ神に何ができる!」
「ビジネス、ですか」
由美は胸ポケットからボールペンを取り出し、メモ帳をめくった。
「あなたの行っている行為は、ビジネスなどという高尚なものではありません。ただの『劣悪な不法操業』です」
「……何だと?」
「不純物混入率三〇%以上、人体への副作用に関する安全基準の著しい欠如、さらには換気設備のない地下施設での有機溶剤の使用。労働環境としても製品の品質管理としても、落第点以下の惨状です」
由美は冷酷な眼差しでマルスを射抜いた。
「神威粒子という未知のエネルギーを、適切な希釈を行わずに人間へ投与すれば、遅かれ早かれ服用者の脳内組織が破壊され、広域のパンデミックを引き起こします。それは市場の壊滅を意味し、持続可能な事業計画とは到底言えません。……愚かな過剰供給です」
「黙れぇぇっ! たかが人間が理屈を捏ねるな!」
マルスは激昂し、棚から黒い結晶体を掴み取ると、自身の口へと押し込んだ。
「我が精製した『特級チートドラッグ』の威力を知るがいい! 我は神の領域を超え、絶対なる破壊の権能を得るのだ!」
ズズズズズッ!
マルスの身体が凄まじい勢いで膨れ上がり、皮膚が割れて黒い異形の装甲が全身を覆っていく。
周囲の空間が歪み、物理法則を無視した黒い衝撃波が地下実験室を激しく揺らした。
「ハハハハ! 見よ! これぞ物理攻撃無効、魔力無効、完全再生を併せ持つ【絶対神体】だ! どんな武器も、どんな科学も、この我を傷つけることはできん!」
化け物と化したマルスが、巨躯を揺らして由美へと襲いかかった。
一振りの拳が空気の壁を打ち破り、衝撃波が実験室の機材を粉砕する。
だが――。
由美の表情は、どこまでも冷ややかだった。
「【絶対神体】、ですか」
由美は足元を一歩引いて拳の軌道をかわすと、天井の大型蒸留プラントの配管を見上げた。
「複数のチート能力を同時に薬物で強制発現させた結果、あなたの細胞は現在、異常な高熱とエネルギーの暴走を起こしています。……いわゆるオーバーヒート状態です」
「知ったことかぁっ! 貴様を叩き潰せば済むことだ!」
「いいえ。急激な熱変化に耐えられないのは、どんな高次元の物質でも同じです」
由美は足元のケースから、液体窒素が充填された小型の冷却噴射装置を取り出した。
「表面を急速冷却し、内部の膨張圧力との間に過度な熱歪み(熱ショック)を発生させます」
プシューーーーーッ!!
マイナス一九六度の超低温ガスが、マルスの黒い甲冑へ集中的に吹き付けられた。
「グアアアアッ!? つ、冷た……なに……身体が……!?」
絶対の防御を誇るはずの甲冑が、超低温によって一瞬でキンキンに凍りつく。
内部の暴走する熱エネルギーと、外部からの超絶的な冷却。熱膨張率の極端な差により、絶対の強度を誇っていた皮膚構造に、ミシミシと目に見えるひび割れが生じ始めた。
「物質の膨張と収縮。……物理法則の基本です」
由美は冷却装置を捨てると、腰のホルスターから大口径のマグナムライフル弾を装填した特殊拳銃を引き抜いた。
「砕け散りなさい」
ズドンッ!!
凍りついたマルスの胸元へ、正確に放たれた一弾。
ガラスが割れるような甲高い音が地下室に響き渡り、絶対神体と誇っていたマルスの漆黒の甲冑は、一瞬にして粉々に粉砕されたのだった。
「が……は……!? 我が……神体が……粉々に……!?」
元の痩せこけた男の姿に戻り、血を吐いて地面に崩れ落ちるマルス。
チート能力の暴走と急激な熱ショックにより、彼の体内の神威粒子は完全に中和・焼失していた。
「……プラントの差し押さえ、ならびに黒幕の無力化完了です」
由美はパンッ、と銃口の煙を払うと、静かに胸ポケットから無線機を取り出した。
「エリス監査官。地下プラントの制圧が完了しました。警察隊の入出と、違法薬物の回収手配をお願いします」
『も、桃西殿……!? ほんの数分しか経っていないぞ……!?』
「迅速な処理こそが、無駄な残業を防ぐ最良の手段ですから」
倒れ伏す黒幕を見下ろし、由美は静かに眼鏡のポジションを整えた。
違法チートドラッグを巡る闇のビジネスは、プロの冷徹なロジックと科学の前に、完全に終わりを迎えたのであった。
第11話をお読みいただきありがとうございました!
異世界の秘術や神威すらも「ずさんな品質管理」と「危険物取扱違反」として冷酷に裁いていく由美さん。圧倒的な科学的・合理的アプローチで黒幕の野望を粉砕する姿をお楽しみいただけましたでしょうか。
次回、第12話「包囲網と脱出劇」では、追い詰められた薬物組織の残党が仕掛ける街規模の広域罠に対し、由美さんが戦略的な脱出作戦を展開します! ぜひご期待ください!




