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ポンコツ神様、戦争を終わらせるために伝説の殺し屋(OL)を召喚したら、状況が最悪になりました  作者: 凪塩 未来


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シーズン2第9話:新しい依頼人と、事務所の日常

ご覧いただきありがとうございます!


第9話は、邪教団との決着を経て平和を取り戻した事務所に、新たな依頼人が訪れる新章突入エピソードです。


訪れたのは、隣接する商業都市の治安組織からの使者。彼らが持ち込んできたのは、異世界の怪しい違法薬物「チートドラッグ」が街に出回っているという不穏な報告で――?

由美さんと神様の新たな事件の幕開けをぜひご覧ください!

邪教団『高位神教団・桃園支部』の壊滅と、全額に及ぶ損害賠償金の回収から二週間。


桃園治安維持事務所には、完全なる「平穏」が訪れていた。


「――神様。今月の帳簿ですが、繰越金を含めて極めて健全な黒字決算となっております。事務所の固定資産税および備品購入費の積み立て枠も十分に確保できました」


『わぁぁ……! すごいよ桃西さん! 僕たちがこんなにお金に困らない生活を送れるなんて、夢みたいだよ!』


午前十時。淹れたてのコーヒーの香りが漂う室内の天井で、神様がご機嫌に光の粒を弾けさせていた。


デスクに向かう桃西由美は、ピシッとシワのない黒のスーツ姿で手帳にペンを滑らせている。

高位神テメシスとの不干渉条約が功を奏したのか、天界からの刺客はぴたりと止まり、洗脳から解放された街の住民たちも平穏な日々の暮らしを取り戻していた。


「平和こそが最高の利益(インセンティブ)です。無駄な戦闘や修繕費が発生しない状態が、治安維持機関として最も理想的な経営ですから」


由美がコーヒーに一口口をつけた、その時だった。


カウベルの涼やかな音とともに、事務所の重厚なドアが静かに開いた。


「失礼する。……ここが『桃園治安維持事務所』で間違いないだろうか」


入ってきたのは、見慣れぬ身なりの訪問者だった。

濃紺の仕立ての良いロングコートに身を包んだ、三十代半ばほどの凛とした女性。その胸元には、隣接する大商業都市『グランベル市』の市警上級監査官を示す銀のバッジが光っていた。


「……グランベル市警の方ですね。ご遠方からようこそ」


由美は立ち上がり、一切の無駄のない美しい所作で応接用のソファへと案内した。


「はじめまして。当事務所の事務および実務を担当しております、桃西と申します。そちらの上空におられますのが、我が事務所の代表(神様)です」


『はじめまして!グランベル市警の人!』


訪問者の女性――グランベル市警の監査官エリスは、上空で会話する光の存在に驚きつつも、すぐに警察官らしい真剣な表情に戻り、深く頭を下げた。


「突然の訪問を許してほしい、桃西殿、そして神様。……実は、我がグランベル市で発生している『ある重大な懸念事項』について、あなたがたの知恵と力を借りたく、足をお運びしたのだ」


給湯室から出された温かい紅茶に口を付けた後、エリス監査官は革の鞄から一冊の捜査資料を取り出し、ローテーブルの上に広げた。


「単刀直入に申し上げよう。グランベル市内で、正体不明の『違法薬物』が爆発的な広がりを見せている」


「違法薬物、ですか」


由美は出された資料に目を落とした。

そこには、路地裏で暴れる男たちの写真や、押収されたという小さなガラス瓶のスケッチが掲載されていた。ガラス瓶の中には、妖しく虹色に光る液体が満たされている。


「ただの麻薬ではない」


エリスは苦々しい表情で語った。


「服用した者は、一時的に人間離れした筋力や、火や氷を放つ『異能』を手に入れる。……そう、あなたがたが先日解決したという『異世界人のチートスキル』と同質の力を、一般の人間が薬によって一時的に獲得しているのだ」


『ええっ……!? チート能力を薬で……!?』


神様が驚いて光を縮こまらせた。


『チートスキルって、高位神が特定の人間だけに与える特別な権能のはずだよ!? そんなものが薬になって出回るなんて……!』


「その通りです、神様」


由美の冷ややかな眼差しが、資料の写真を細部までスキャンしていく。


「チートスキルの発現プロセスは、神威粒子による生体データの書き換えです。……なるほど。邪教団や高位神の残党が、抽出した神威成分を精製し、液状の『ドラッグ』として流通させているのですね」


「まさにその通りだ」


エリスは強く頷いた。


「我が市の警察組織では、物理法則を無視した『チートドラッグ』の使用者(ジャンキー)たちに対処しきれていない。暴走した使用者が店舗を破壊し、警備隊を退ける事件が連日発生している。……噂を聞いたのだ。この桃園で、異世界の理不尽なチート能力者を次々と科学とロジックで打ち砕いた『黒いスーツの掃除屋』がいると」


エリスはまっすぐに由美の瞳を見つめ、深々と頭を下げた。


「頼む、桃西殿。チートドラッグの製造元および流通ルートの解明と、その撲滅に力を貸してほしい。報酬はグランベル市警の特別捜査費から、提示された金額を全額支払う」


オフィスの静寂の中、由美は胸ポケットからボールペンを取り出し、手帳の表紙をトントンと叩いた。


「依頼の要件は理解いたしました。……ですが、エリス監査官」


「な、何か問題でも……? 報酬の額なら、相談に応じるが――」


「金額の問題ではありません」


由美は静かに首を振った。


「我が事務所の管轄は、あくまでこの『桃園地区』です。他都市の治安維持業務に無断で介入することは、管轄権の侵害にあたります」


「あ……」


エリスが落胆の表情を浮かべかけた、その時。


「ただし」


由美は手帳を開き、一枚の地図を広げた。


「そのチートドラッグとやらがグランベル市で蔓延し、供給過多となれば、必ず隣接する我が桃園地区へも流通ルートが拡大します。つまり、これは将来的に我が事務所の業務を脅かす『予備的有害物質』です」


由美は眼鏡のブリッジを押し上げ、口元に冷徹で頼もしい笑みを浮かべた。


「『桃園地区への不法流出を未然に防ぐ予防保全措置』として、グランベル市警との共同捜査体制(出張業務)を組む形であれば、我が事務所の規約上、何ら問題はありません」


『桃西さん……!』


神様が嬉しそうに声をあげる。


「本当か……!? 受けてくれるのだな!」


エリスの顔に明るい希望の光が宿った。


「はい。……では、契約書を作成いたします。出張手当、危険手当、ならびに現地での特殊装備調達費の概算見積もりをご確認ください」


由美が手際よくプリントアウトした契約書を差し出すと、エリスはその素早さに圧倒されながらも、迷いなく署名を行った。


「助かる……! これで街の治安を取り戻せる!」


「お任せください」


由美は立ち上がり、書類を綺麗にファイルへ収めた。


「異能を薬で切り売りするような不当な流通業者など――我が事務所の監査で、跡形もなく解体して見せましょう」


新たな事件の匂いを前に、桃園治安維持事務所のプロフェッショナルな出張業務が、今まさに始まろうとしていた。

第9話をお読みいただきありがとうございました!


邪教団の壊滅で一安心かと思いきや、今度はチート能力を一時的に付与する「危険薬物」の流通という新たな問題が浮上しました。

単なる刺客の撃退にとどまらず、都市間の社会問題へと挑む由美さんのプロフェッショナルな調査手腕にご期待ください!


次回、第10話「違法チート薬物の脅威」では、チートドラッグによって暴走する密売組織との熾烈な現場捜査と戦闘を描きます!

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