シーズン2第8話:決算報告と平穏な日常
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第8話は、勇者ガルシアを撃破した後の「後始末&損害賠償請求(取り立て)編」です。
街の平和を取り戻した由美さんが向かうのは、事件の黒幕である邪教団のアジト。
異世界の邪悪な宗教組織すらも「悪質で杜撰な違法反社会組織」として冷酷に監査し、隠し金庫から残業代・器物破損費・迷惑料を1円単位で根こそぎ回収する爽快な回収劇をお楽しみください!
自称・勇者ガルシアが倒れ、魅了の解けた街に平和が戻った翌日。
桃園治安維持事務所の空気は、いつも以上にピンと張り詰めていた。
デスクに向かう桃西由美の指先が、電卓のキーをパチパチパチパチッと恐ろしい速度で叩き弾いている。
「……えー、事務所のドア修繕費、特殊弾薬および催眠ガス・中和ガスの調合試薬代、リン君ほか市民への非致死性無力化装備の償却費、ならびに昨日の緊急残業手当……」
『も、桃西さん……顔がすごく怖いよ……?』
天井近くで小さく丸まっている神様が、ひやひやしながら声をかけた。
「怖いのではありません。極めて真面目に『損害額の試算』を行っているのです」
由美は電卓の『=』キーを力強く叩き込むと、画面に表示された数字を冷ややかな目で見つめた。
「総額、三百四十八万六千五百円。……これほどの大赤字を我が事務所が被る理由など、どこにも存在しません」
『で、でも、ガルシアは倒したし、天界も手出ししてこないよ? どこからそのお金を回収するの……?』
「決定しているではありませんか。事件の元凶である地上の黒幕――『高位神教団・桃園支部』の隠し資産から、全額即時徴収いたします」
街の郊外。鬱蒼とした森の奥深くにひっそりと佇む古城。
こここそが、高位神の威光を傘にきて街の陰で悪事を働いていた邪教団の本拠地であった。
「大変だ! ガルシア様が討たれただと!?」
「天界からの神威通信も途絶えた……! どうなっているんだ!?」
地下の礼拝堂で、黒いフードを被った教団の幹部たちが狼狽えていた。
彼らは高位神から与えられたチートスキル保有者を囲い込み、街を裏から支配しようと画策していた悪質組織である。
「ええい、落ち着け! 我らにはまだ、神聖なる大結界と、先代から蓄えた莫大な聖遺物(資金)がある! 立て直すことは――」
バンッ!!!!
重厚な鉄製の扉が、蝶番ごと弾け飛んで教団の礼拝堂に転がり込んできた。
「な、なんだぁっ!?」
煙が立ち込める入口から歩み出てきたのは、黒のパンツスーツに身を包み、黒い革手袋をはめた桃西由美だった。
その肩口には、心なしか誇らしげに光る神様の姿もある。
「……高位神教団・桃園支部の皆様ですね」
由美は手帳を開き、ボールペンを教団の司祭に向けた。
「桃園治安維持事務所、会計担当の桃西です。本日は、貴団体が引き起こした一連の不法行為に対する『損害賠償金および損害遅延金の徴収』に参りました」
「な……なんだと!? たかが人間が一足飛びに我らの聖域へ踏み込んでくるとは!」
司祭が狂乱して叫ぶ。
「出会え! 警備の信者ども! この不敬なる女を八つ裂きに――」
「警備の方々なら、すでに廊下で全員『失神処理』を済ませてあります」
由美は淡々と言い放った。
「スタンガンと催眠スプレーによる迅速な無力化です。後で警察に引き渡しますので、治療費は貴団体の破産財団から出してください」
「ひっ……!? 警備の強化人間たちが一瞬で……!?」
教団幹部たちが青ざめて後退りする。
「お聞きください」
由美はカツンとヒールを鳴らして前へ出た。
「貴団体は、無許可での宗教活動、洗脳スキルの不法使用、街のインフラ破壊、および我が事務所に対する暴力的な業務妨害を行いました。反社会組織として悪質極まりないと言わざるを得ません」
「う、うるさい! われらは神の意思を代行しているのだ! 法律など適用されるか!」
「神の意思、ですか」
由美は冷たい笑みを浮かべた。
「先日のDOS攻撃により、あなたがたの尊ぶ高位神テメシス様とは『不干渉および損害補填に関する覚書』を交わしております。地上におけるあなたがたの不始末について、高位神側は『一切関知しない。好きに処理して良い』との回答を得ておりますが?」
「なっ……!? 神に見捨てられた……だと……!?」
司祭が絶望に顔を歪める。
「というわけで、あなたがたには何の庇護もありません。……さあ、地下金庫の場所へ案内していただきましょうか。拒否される場合は、相応の物理的行使をもって解錠いたします」
十分後。教団の最深部にある地下金庫。
厳重なダイヤル錠と魔法陣で封印されていた金庫の扉は、由美が持ち込んだ特殊な周波数発振器と爆縮用粘土(C4)によって呆気なく吹き飛ばされていた。
「ひいいいっ! 金貨も、宝石も、異世界の魔導具も全部持っていってくれぇ!」
頭を抱えて泣き叫ぶ教団幹部たちを横目に、由美は金庫内の資産を手際よく検分していた。
「……金貨二千枚、高純度の魔導宝石、ならびに無記名の債権。概算で約五千万円相当ですね」
『ご、ごごご、五千万円!?』
神様が目玉を飛び出させんばかりに光を拡散させた。
『桃西さん! 大金だよ! これで新しい事務所が建っちゃうよ!』
「滅相もありません。我が事務所は過剰な利益を求めない健全な法人です」
由美はアタッシュケースに整然と請求額分の金貨と宝石(三百四十八万六千五百円+迷惑料および手数料)だけを正確に詰め込み、パチンと鍵を閉めた。
「過不足なく、請求分のみを徴収いたしました。残りの資産につきましては、差し押さえ物件として警察および行政機関へ引き渡します」
由美は泣き崩れる司祭を見下ろし、一枚の領収書を彼の胸元にサッと差し込んだ。
「ご清算、誠にありがとうございました。二度とお会いしないことを切に願っております」
数日後。
すっかり元通りに修繕された桃園治安維持事務所。
新しく付け替えられた頑丈なドアからは、秋の心地よい日差しが差し込んでいる。
「桃西さーん! 今日の巡回、異常なしだったよ!」
洗脳からすっかり回復したリンが、元気に事務所のドアを開けて入ってきた。手には近所の八百屋さんから貰ったという新鮮な野菜の袋がある。
「ご苦労様です、リン君。お茶を淹れましょう」
「やあリン君! 今日も街は平和かい?」
デスクの上の専用クッションで、神様がのんびりと光を明滅させている。
刺客の襲撃も、洗脳の恐怖も消え去り、事務所には以前のような穏やかで温かな時間が戻っていた。
「あ、桃西さん。街の人たちが『今度、由美さんと神様のお礼に感謝祭をやろう』って言ってたよ」
「感謝祭ですか……。お気持ちはありがたいですが、街の予算を無駄遣いされないよう、事前に見積書の提出を求めておきます」
「あはは、由美さんらしいや!」
リンが楽しそうに笑い、神様もポンポンと跳ねる。
由美は淹れたての緑茶の湯気を静かに見つめ、小さく微笑んだ。
異世界のチートスキル、神々の不条理な暴力、そして不当な悪意。
どのような脅威が訪れようとも、この事務所がある限り、プロのロジックと冷徹な手腕で街の日常は守られ続けるだろう。
「さあ……本日も通常業務を始めましょうか」
カチリと眼鏡のフレームを整え、桃西由美は今日も静かにキーボードへ指を走らせるのであった。
第8話をお読みいただきありがとうございました!
神々の威光も、勇者のチートも、邪教団の資産も、すべて由美さんの論理と計算の前には無力でした。きっちり1円単位で損害賠償を回収し、事務所の帳簿を黒字に収めるプロ意識の高さは流石の一言です。
これにて、天界の刺客および地上の邪教団を巡る一連の事件は完全結審となります!
次回、第9話「新しい依頼人と、事務所の日常」では、街に再び訪れた平和な日常と、新たな事件の予感をお届けします。ぜひご期待ください!




