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ポンコツ神様、戦争を終わらせるために伝説の殺し屋(OL)を召喚したら、状況が最悪になりました  作者: 凪塩 未来


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シーズン2第3話:高位神の宣告

ご覧いただきありがとうございます!

第3話は、刺客を倒された黒幕である高位神「裁きの天神(テメシス)」が直接介入を開始するエピソードです。


圧倒的な神威の威圧感を前にしても、まったく臆することなく相手の怠慢とずさんな管理体制を正論で論破する由美さん。神々の領域に対しても毅然と立ち向かう二人の覚悟をお楽しみください!

第一の刺客――「超回復」のライルをものの見事に「処理」してから数日。

桃園治安維持事務所には、再び平穏な日常が戻っていたように見えた。


午前十時。

給湯室から漂う淹れたてのコーヒーの香りが、こぢんまりとしたオフィスを包み込んでいる。


「神様、十時のコーヒーブレイクの時間です。砂糖は入れますか?」


デスクの整理を一段落させた由美が、湯気の立つマグカップを手に取りながら天井の隅に声をかけた。

だが、返事はない。


「……神様?」


いつもなら「お、待ってました!」と元気よく降りてくるはずの光の気配が、なぜか激しく震え、その輝きを弱めていた。

由美は眉をひそめ、マグカップをデスクに置くと、神様の気配が漂う空間へと歩み寄った。


『……桃西さん……来る……!』


か細く、怯えたような声が響く。


『いや、来るとかいうレベルじゃない……。この世界の理(ことわり)そのものが、上から……高位神界の方から、無理やりこじ開けられている……!』


「神様、深呼吸をしなさい。何が起きていますか」


由美が冷静な声で問いかけた、その瞬間――。


事務所の空気が、凍りついたように重くなった。

窓の外の穏やかな青空が、パキリ、とガラスにヒビが入るかのように禍々しい紫色へと変色していく。鳥の鳴き声が消え、風がピタリと止まった。


世界からすべての音が奪われ、圧倒的なまでの「質量を持った威圧感」が天井から降り注ぐ。


『あ、あぁ……神格通信(ダイレクト・リンク)だ……!』


神様が恐怖に耐えるように身を縮こまらせた。

直後、オフィスの空間の中心に、黄金色と冷たい藍色の光が渦巻き、巨大な光の投影――高位神からの通信窓が強制的に展開された。


投影されたのは、人間の姿ではない。

幾重にも重なる巨大な光輪と、一切の感情を持たない無数の「眼」が配置された、異形の神聖幾何学模様のような存在。


高位神――『裁きの天神(テメシス)』。


その存在から発せられる神威だけで、オフィスの床の木目がミシミシと悲鳴を上げ、窓ガラスが細かく震え始めた。

人間であれば、一瞥しただけで精神が崩壊しかねないほどの圧倒的な格上のプレッシャー。


『――下等なる現象の残りカスよ』


声は空気の振動ではなく、直接脳内に叩き込まれるような重低音だった。


『我が下僕(しもべ)である異世界の殺人鬼を処分したか。所詮は下等な泥人形の寄せ集めに過ぎぬ貴様らが、よくも調子に乗ってくれたものだな』


神様は恐怖で言葉を失い、光の粒子を小さく震わせることしかできなかった。

かつての弱小な自分なら、この威圧感の前にひれ伏し、消えることすら許されなかっただろう。


だが、その神様の前に一歩進み出た影があった。


黒のパンツスーツに身を包んだ桃西由美。

彼女は圧倒的な神威のプレッシャーを浴びながらも、眉ひとつ動かさず、冷ややかな目で空中に出現した巨大な光の輪を見上げていた。


「我が事務所の管轄内に無断で侵入し、一般市民に危害を加えた不法侵入者(害虫)を処分したまでです。それが何か?」


『……ほう』


高位神の無数の眼が、一斉に由美を捉えた。


『貴様が、あの世界から迷い込んだ異物の女か。元の世界の記憶とスキルを消去され、このポンコツ神の依代として機能しているだけの欠陥品め。神の定めた秩序に逆らい、我が使徒を殺した罪は重い』


高位神の声に、殺意の神気が混じり込む。


『聞くがいい、愚かなる虫けらども。我が世界において、貴様らの存在はバグ(不具合)に過ぎぬ。次の刺客は、先日のような下等な殺人鬼ではない。神の権能を完全に使いこなす『神罰の執行官』だ。その肉体を細切れにし、二度と再生できぬよう魂のレベルで消滅させてやろう』


それは、絶対的な神からの「処刑宣告」だった。

逆らうことは許されない。神の意思こそがこの世界の絶対のルールであると、その存在自体が誇示している。


オフィスの空気がさらに冷え込み、神様の絶望感が限界に達しようとした時――。


「――お言葉ですが、神様(テメシスとやら)」


由美は冷淡に、そしてハッキリとした口調で、その宣告を遮った。


『な……に?』


「あなたの仰る『神の秩序』とやらを、私は監査させていただきました。結論から申し上げますと、非常にずさんで、非効率的な管理体制と言わざるを得ません」


『……貴様、今なんと言った?』


高位神の声のトーンが、怒気によって一段と低くなった。

神に逆らう人間など存在しない世界において、事務員然とした女に真っ向から論破されるなど、想定外の侮辱だったのだろう。


「自分の手で不都合なバグを処理できず、異世界から暴力的な外部委託(アウトソーシング)の刺客を送り込む。挙句の果てに、失敗すれば威圧的な通信で脅迫するのみ。それは管理者としての能力の欠如であり、ただの『怠慢』です」


由美は胸ポケットからボールペンを取り出し、トントンと手帳の表紙を叩いた。


「我が『桃園治安維持事務所』は、この街の適正な環境整備と治安維持を業務として請け負っています。仮にあなた方がいかなる高位の存在であろうと、我が管轄内で無秩序な暴力と破壊活動を行うのであれば、私たちはあなた方を『排除すべき大規模な害虫』として処理するまでです」


『……虫けらが……神に向かって、よくも抜かしたな……!』


激昂した高位神の神威が爆発し、オフィスの天井の壁紙がバリバリと剥がれ落ちた。

圧倒的な神の怒りが、由美の小さな身体を押し潰そうと襲いかかる。


だが、由美は一歩も引かなかった。

その背後で、恐怖に震えていた神様が、ふと顔を上げた。


――そうだ。

僕はいつまでも、あの頃の無力な現象の残りカスじゃない。

僕には、この冷徹で、誰よりも勇敢な「相棒」が、この事務所の誇り高き社員がついてくれているんだ。


『……そうだ!』


神様は震えを止め、わずかに残るすべての神力をかき集めて、由美の背中を優しく、強く包み込む光の加護を放った。


『僕たちは、誰にも支配されない! この街の平穏は、僕たちが自分たちの手で守るんだ! 君たちの思い通りになんてさせないさ、テメシス!』


「よく言えました、神様」


由美はふっと、わずかに口元を緩め、それから再び冷徹なビジネスパーソンの顔に戻った。


「通話の終了時間です。これ以上の無断回線の使用は、業務妨害としてプロトコル違反に処します」


『貴様ら……! 後悔させてやるわ! 次なる使徒の牙に引き裂かれ、絶望の中で消え去るがいい!』


轟音とともに、高位神の通信窓が無理やり引き剥がされるようにバツンと途切れた。


紫色の異様な空気が晴れ、オフィスに再び現実の光が戻ってきた。


荒れ果てた天井や、壁のひび割れを見渡し、神様はハァァ……と長大なため息をついた。


『や、やってしまった……。相手はあの高位神テメシスだぞ……? 完全に喧嘩を売っちゃったよ……』


「喧嘩を売ったのはあちらです。私たちは正当防衛の範囲内で業務方針を提示したまでです」


由美は散らかった書類を淡々と拾い集め、きれいに整え直しながら言った。


「ですが、先方の発言から推測するに、次なる刺客は前回の者とは比べ物にならないほど厄介な特性を持っているはずです。神の権能を完全に使いこなす『執行官』……ですか」


『うん……。神の権能ってことは、単純な物理法則だけじゃ通用しない、もっと異質なチートスキルを持っている可能性が高い。どうするんだい、桃西さん?』


由美は使い慣れたボールペンをポケットにしまい、いつもの冷徹で美しい笑みを浮かべた。


「対策を立てます。私たちには準備期間という最大の武器がありますから」


彼女は窓の外、穏やかな日常を取り戻した街並みを静かに見据えた。


「いかなる高位の存在であれ、この街の秩序を乱すというのであれば――私たちが綺麗に『掃除』して差し上げましょう」

第3話をお読みいただきありがとうございました!


高位神からの威圧に恐怖しつつも、由美さんの背中に押されてしっかりと自分の意思を示したポンコツ神様。二人の絆がより一層深まる回となりました。


次回、第4話「二体目の刺客、不可視の刃」では、「完全不可視・気配遮断」のチートスキルを持つ新たな刺客が事務所を襲撃します! 視認も気配も効かない敵に対し、由美さんがどのような現実的アプローチで挑むのか、ぜひご期待ください!

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