表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第10話「変化」

ここ数日、ハルはリアと鍛錬を続けていた。


朝はまだ薄暗い。

空気は冷え、吐いた息がわずかに白く滲む。


人の気配はない。


その静けさが、ハルにとっては都合がよかった。


余計なものが少ないほど、世界は見やすくなる。


今日も、リアが向かいに立っている。


何も言わず、ただそこにいる。


それだけで、鍛錬は始まる。


(……いつも、付き合ってもらってるな)


ふと、思った。


リアは頼んだわけでもないのに、毎日ここに来る。

時間も、文句も、対価も求めない。


ただ、来てくれる。


それが当たり前になっていることに、何だか申し訳なくなってきた。


(……何か、返した方がいいのかな)


そう考えた瞬間。


「私はメイドなので、お気遣い無用です」


思考が止まる。


「……え?」


反射的に声が出た。


今、確かに。


考えていたことに対して、返事をされた。


(……読まれた?)


一瞬、背中に冷たいものが走る。


「何でわかったの?」


問いかける声は、思ったよりも素直に出た。


誤魔化す余裕はなかった。


リアは、少しだけ目を細める。


淡い金色の瞳が、柔らかく揺れた。


「何となくですが、顔に書いてありました」


静かに笑う。


ほんのわずか。


けれど、確かに笑っている。


ハルは、その変化に気づいていた。


(……最近、よく笑う)


前は違った。


表情は薄く、反応も曖昧で、どこかそこにいないような感覚があった。


けれど今は違う。


わずかでも、変化がある。


(……いいこと、なんだと思う)


理由は分からない。


けれど、悪いものではないと直感で分かった。


その瞬間。


(……あ)


思考が、少しだけ途切れる。


視界の輪郭が、わずかにぼやけた。


(……集中、切れてる)


さっきまで見えていたはずの揺らぎが消えている。


ただの人の動きに戻っていた。


(人の身体も、完全に止まっているわけじゃない。

常に少しずつ変わり続けている。

だから揺らいで見える。――黒い揺らぎとは違う)


ハルは、小さく息を吐く。


(……やっぱり)


自分の力は、思っている以上に繊細だ。


(考えたら、消える)


観測は意識そのものだ。


少しでもズレれば、成立しない。


その事実が、静かに胸に重くのしかかる。


「……難しいな」


気づけば、声に出ていた。


自分でも驚くほど、弱い声だった。


(できてるはずなのに)


(ちゃんと、分かってきてるのに)


うまくいかない。


少しずつ進んでいる感覚はある。


それでも、自分に自信が持てなかった。


そのとき。


「上達していると思いますよ」


優しいリアの声が、近くで聞こえた。


ハルは顔を上げる。


(……ほんとに?)


そう思う。


でも、すぐに言葉にはしなかった。


リアは変わらず、静かにこちらを見ている。


いつものように。


何も足さず、何も押しつけないまま。


「……そうかな」


少しだけ、視線を逸らす。


認めてしまうと、甘えてしまいそうだった。


「はい」


短い返事。


迷いはない。


リアの尻尾が、わずかに左右に揺れている。

ほんの少しだけ、嬉しそうに見えた。


その様子に、ハルはわずかに息を止める。


(……なんで、そんなに)


確信しているんだろう。


自分よりも、自分のことを分かっているみたいに。

きっときっと聞いても。

(メイドですから……って言われるんだろうな)


沈みかけていた思考が、わずかに持ち上がる。


(リアにしか鍛錬を頼めないし、付き合ってもらってるんだから、気合い入れないと)


(……まだ、できる)


ハルは、ゆっくりと視線を上げる。


「……もう一回やる」


今度は、はっきりと言えた。


今日も、やる気は消えていなかった。


いつも読んで頂きありがとうございます!

今回もリアはすごく可愛いですね♪

これからもよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ