父親の死と旅立ちの時
太陽の光が中央都全体を照らすのは、午前6時を過ぎてから。少年、シンカが目覚めたときはまだ真っ暗闇の中。自宅のまで寝ぼけた顔に、海風を浴びて、眠気を吹き飛ばす。
『ふぁ~ぁ』と、暗闇の町中にあくびが響く。
両手でほほをたたき、本格的に目を覚ます。ゆっくりと大きいリュックを背負い、後ろで心配そうに見つめる母に最期の挨拶をする。
『それじゃ、行ってくるね 母さん』
誕生日を迎え、20歳を迎えた。中央都では20歳(成人)を迎えるまで外の世界に出ることができなかった。外の世界を見れるこの日をシンカは心待ちにしていた。
数年前、書面を通じて父親が死んだことを知る。
かなりの数の遺品があったらしい。中央都から約3日歩いた先の村、デッドラッドに荷物があるようで、それを取りにいかなければいけない。
『シンカ、絶対帰ってきてね』
小さくなる母を見ながら、ゆっくと外へつながる扉の方に足を進める。
・・・
中央都のシンカ家から東へ4km歩いた先に存在する外の村とつながる扉。通称、水門。外に出るためには、都民の印と行き場の書かれた正式文を見せる必要がる。そして、2つを見せてから、厳しい尋問に適切に答え、警備の許可がでると水門は大きな地響きを響かせながらゆっくりと開く。警備は、適切な試験を受けた都民が日毎に代わり、今日はシンカの親戚が警備の日だった。
『シンカ、たとえお前を知っていても、厳正な尋問に答えなければ、ここはとおさん』
『はい』
『まず問一、きさまはこれからどこへ向かう!』
『デッドラッドです』
『問二、その目的は』
『父の遺品を回収するためです』
『問三・・・』
全25問の質問に元気よく答えたシンカに、水門を通る許可が出る。
『これが、デッドラッドまでの生き方が書かれた地図だ。そして、これがデッドラッドに入るための正式文。地図と文、この2つは絶対になくしてはいけない。なくしたら、二度とデッドラッドにも、中央都にも入ることはできないからな。”絶対に”なくすなよ』
『わかりました!』
『それと、デッドラッドは死者の村だ。噂だが、そこには死んだ人が不完全な形で生き返ったゾンビというモンスターが発生するらしい』
『ゾンビ?』
『見つけたらすぐに殺せ。容赦はいらない。躊躇している間に、自分自身が食い殺されてしまう』
『わ、わかりました』と、少し引き気味で返事をする。
警備の合図で海門は地響きを上げながら、ゆっくりと開く。
『さらばだ、シンカ。必ず帰ってこい』
『さよなら、中央都』
『閉門』の合図で海門が閉まる。
都の外に1人置き去りのシンカは、デッドラッドへつながる地図を見ながら、西の方角へゆっくりと歩き始める。今まで中央都内しか見てこなかったため、外の景色は刺激が強かった。3歩進んで止まっては、外の景色を見る。何度も繰り返すと、時間が進み、気が付くと真っ赤な太陽が一番高い位置にある。全体に光が差したことで、地図が見やすくなる。
『まずは、小麦の町 アウステラ・リラを目指せばいいのか』
・・・ 小麦の町 アウステラ・リラへ
昔、お母さんから聞いたことがある。
アウステラ・リラはナガリコ村と同じぐらい農業が盛んな街で、特に小麦の生産に力を入れている。場所は、中央都から西へ50km進んだところにあるが、その途中の山を登らないといけないらしい。厄介なのが、その山はコカトリコが卵を産む場所らしく、産卵期を迎えた凶暴なコカトリコがたくさん生息しているらしい。
『ここも、だめか・・・』
ちぎった木の枝を丁寧に編みこんで作られた巣。そこには必ず1個の本物と4個の偽物、計5個の卵がおかれている。弱肉強食の世界で、同族や他族に卵を食われるケースは少なくない。種を残すために、多くの種族がこのような方法をとる。
近くをよぎった瞬間、己の肉体は天国にあるだろう。
『どうしたらいいのかな・・・』
想定外の出来事にシンカは、その場で立ち止まる。
下手な戦闘は避けたい。しかし、コカトリコの卵が他の道を通行止めにしている。
考えぬた先に、ここが森の中だったことを思い出す。膝を曲げて上空へジャンプ。大きな葉っぱで姿を隠しながら、細長くもろい枝の上を歩く。
地上がだめなら、少しでも高い場所を歩く。吉と出るか凶と出るか。今日は、吉と出た。
卵の上空を歩いていた時、5匹のコカトリコが樹木に身体をぶつける。『ぴょんぴょん』と軽快に枝と枝を移動するシンカを落とそうとしつこく付きまとうが、地面にじっかりと根をはる木は倒れる気配を見せようとしなかった。
『グェ! グェ!』と、叫び声をあげながら、目を大きく開きながら悔しそうにシンカを見つめる。
進み続けると、コカトリコの姿は消える。
木の中から顔を出すと、広大な畑が広がっていた。
次回 小麦の町 アウステラ・リラ
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