嘘に嘘を重ねる時は、自分の履歴書と整合性が取れているか三回は確認しろ
こんにちは。
サクッと読める長さにしています。
「……うっ」
ゴフッ!!
男がいきなり吐血し、その場にうずくまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……あの、きっとこれ、鞘が壊れてますよ」
聖剣を王女に渡しつつ、男は血で汚れた口元を押さえる。
「えっ?」
今、明らかに聖剣を抜いたのではなかったのか…?
この目の前の男が、待ち望んだ勇者ではないのか?
男はそのまま落ちた鞘も拾って、聖剣に被せた。
「……ほら、壊れてますよ」
鞘の先を引っ張ると、スルッと聖剣が抜けた。
「だから俺は、勇者とかじゃないです……ゴフッ!」
「……」
ルディは目の前で血を吐いている男を、注視していた。
聖剣が抜け、鞘が外れている。
抜き身になった聖剣は、確かに輝きが増していた。
だが勇者だとして、この男は何だ?
まるで覇気がなく、血を吐いている始末。
「姉さん……」
「あぁ、分かってる。逃す気はない」
ルミナは一瞬、困惑するも、男が具合が悪そうなのを見てすぐさま呪文を唱えた。
「回復」
ゲボッ、ゴフッ!!
男は更に激しく吐血した。
(……ヤバイ……身体の中が灼ける)
「……あの、回復はちょっと……」
「あっ、はい、すみません!」
「あの、でも血が!!」
「……持病の癪なので、お気になさらず」
ルディは痺れを切らして、姫から鞘がキッチリ嵌った聖剣を受け取り、試しに抜いてみる。
──全く抜ける素振りはない。
「やはり、壊れてなどいない」
地面に突っ伏し、呻いている男を指差して断言した。
「姫様、こいつがお探しの勇者です」
「……あ、やっぱり? 何となくそうじゃないかなって思ってました」
「いや、聖剣光ってたじゃないですか。明らかに」
一同が頷く。
「何故、勇者ではないと否定するのか、事情を聞こうではないか」
小屋の中は思った通りに狭かった。
土間に炊事場があり、床座は板張りで人一人がやっと寝れる広さだった。
そんなスペースに大人四人がひしめき合って座る。
「えっと、まずは自己紹介から」
「私はルミナ・セレスティア・オブ・ルミナス。こちらは私の護衛の聖騎士のルディ、そして双子の弟のルゥです」
「初めてお目にかかります、勇者様」
三つ指をついて、丁寧にルミナはお辞儀した。
「……俺はジノ。見ての通り一人暮らしです」
正直ルディは、ガッカリしていた。
目の前の男が、体格も細く、しかも血を吐く程の病弱だったからだ。
それにしても鬱陶しい前髪をしている。
剣を振るうときに、それでは碌に前が見えないのではないか?
「お前の事情がどうであれ、聖剣に選ばれたことは名誉だ」
「……あの、だから勇者とか出来ませんよ。血を吐いたのを見たでしょう? 身体が弱いんです」
「俺はただの粉屋の人夫です」
(全く勇者だなんて、冗談じゃない)
「聖剣に選ばれたら、たとえ粉屋でも肉屋でも魚屋だろうが、勇者は勇者ですよ」
「……」
「ええと、普段は粉屋で働いていらっしゃるんですよね?」
ルミナは質問しかけて、ふと思った。
「はい」
「人夫って肉体労働では?」
ギクッ!
「粉袋はかなり重いのでは?」
「いや、そんなことはないっすよ……」
(もうこれ以上、言い逃れが出来ると思えない……)
ルディは溜め息をつき、姫と顔を見合わせ、頷く。
「明朝、お迎えに上がります」
「ジノ様を、当代の勇者と認定し、我らはあなたにお仕え致します」
(あぁ、終わった……)
読んでいただきありがとうございます。
氷を食べて口の中を切った時に、めちゃくちゃ血の味がします。




