人生の転機は大抵、足元が滑るような間抜けな瞬間にやってくる
こんにちは。
混浴温泉でこんな出会い絶対ないですよねー…。
若い男の声だった。
ルミナは言う通りにするしかなかった。
岩の上にあった布切れは、血が滲んでいるように見えた。
まさかゴブリン達を倒したのはこの男?
温泉に誰もいないのを確認して入ったのに、この男はどこから現れたのだろう?
自分は裸で、丸腰だ。
このまま襲われたら、ひとたまりもない。
とにかくここは大人しく従って、隙を見て逃げるしかない。
「騒がなければ、何もしない」
こんなところで貞操を奪われたら、勇者探しどころではなくなる。
「ゆっくり手を離すので、そのまま振り返らずに」
ルミナの頭の中はもういっぱいいっぱいだった。
拘束が緩んだ瞬間に、走り出す。
──その瞬間。
足元が滑った。
バッシャーーン!!
湯の中に沈み、頭を打った衝撃で意識が途切れた。
「!!」
ジノは目の前で王女が転んだので、一瞬戸惑った。
裸の王女が湯の中に沈んでいる。
「おいおい、マジか……」
このまま死なれでもしたら、打首で済まない。
ジノは仕方なく、王女を湯から掬い上げた。
月明かりの下、王女の顔が顕になる。
きつく寄せられた眉根、固く閉じられた瞼。
通った鼻筋に小さな唇。
「おい、目を覚ませ!」
「……うっ」
睫毛が震え、その瞳が捉えたのは──。
降るような星空を背に、真紅の双眸がこちらを見つめていた。
濡れた黒髪から、水が滴り落ちる。
細いが、よく引き締まった身体。
ルミナは思わず見惚れた。
「しっかりしろ、大丈夫か?」
「……はい」
ジノは王女の身体を支えつつ、視線を逸らす。
「……不可抗力だった。悪気はない」
「……忘れろ。お前は何も見てない」
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