秘密を暴露して守れるのは、勇者の威厳かヒロインの面目か
「俺の目が赤いのは、俺が魔物の血を引いているからだ」
「!!」
「ちょっと!!」
リネットが立ち上がり、隣のジノに食ってかかる。
「魔物の血を引いてるなんて、私は聞いてないわ!」
「お前が知らなかっただけだろ?」
ジノは至って冷静だった。
「魔物との混血だって……これは驚いたな……」
フェリクスはジノの顔をまじまじと覗きこんだ。
「顔も物凄く整ってるし、きっと高位の魔物の子なんだろうな」
「……」
「君を見た時、みんなその目について、噂していたんだよ、ねぇ?」
フェリクスは隣のティアに同意を求めた。
「……あの、赤い目は魔物の色だって……気を付けろってアカデミーの先生が言ってました」
「しかし、この試験は塔主様の推挙があって、参加者が限定されている。不審な者などいない筈だが?」
口の重そうなロルフが正論を吐いた。
「でも人の姿に近いほど、高位な魔物なのよね?」
「塔主様も騙されている可能性すらあるわ」
向かいの席のミレイユが付け加え、ティアもそれに相槌を打つ。
「そ、そうです!」
「そもそも人の姿に化けれるほどの魔物なら、魔力もそれは甚大だろうからね」
「つくづく、このゲームが魔法禁止で良かったよ……」
フェリクスが皆を見回し、ジノに視線を向けた。
(俺の印象下げか……ふぅん?)
「……ジノ様は」
「ジノ様は、そんな危険な人じゃありません!!」
ルミナが立ち上がって大声を上げた。
わなわなと震え、唇を噛み締めている。
「ジノ様は、聖剣に選ばれた勇者様なんです!!」
「!!」
その衝撃な暴露に、その場の一同が皆フリーズした。
「ちょっと、ひ……ルミナったら!
リネットが乾いた笑みを浮かべて、止める。
「この子、湖で死にかけて、ちょっとどうにかしちゃったみたい……」
慌てて取り繕うとするリネットをジノが制止した。
「リネット、別にいい」
「俺が勇者なのは本当だ。だが、この試験にもこのゲームにも今は関係がないだろう?」
その場の一同が息を呑んだ。
「……ジノ様」
ルミナは複雑な眼差しでジノを見つめ、小さく呟く。
「申し訳ありません……」
「お前は悪くないよ」
そのままジノは立ち上がり、ルミナの手を引いた。
「俺達はここで失礼する」
「行くぞ、リネット」
「あっ、うん」
少し嬉しそうに、リネットはその背を追った。
ジノはそのまま自室へ向かう。
「ジノ様、私……ジノ様が悪く言われているのがどうしても我慢出来なくて」
「俺が責められるのは想定内だった」
「えっ?」
「このゲームは心理戦だ。俺は姫さんを守る必要がある」
ジノは一度立ち止まり、辺りを見回すと、声を抑えて言った。
「ここで話すのは良くない、とりあえず俺の部屋へ行こう」
──ジノの部屋の前で、誰の姿もないことを確認してから部屋に入った。
「密会は基本疑われる。用心するに越したことはない」
ルミナとリネットは頷いた。
「お前達はそこに座れ」
ジノはベッドに二人を座らせると、自分は机の椅子に腰掛けた。
「人狼は、自分が怪しまれて処刑されない為に、人々から怪しまれる位置にいわゆる黒塗りをする」
「俺はその位置になろうとしていた」
リネットは納得がいかず、ジノに問いかける。
「どうして? わざと怪しまれる位置に? それで姫様をどうやって守れるの?」
「黒塗り位置は襲撃されにくいんだよ」
「黒塗り位置は吊り位置なんだ。だから敢えて残されたりする」
「そうなんだ」
「でも処刑されてしまったら? 元も子もないのでは?」
ルミナの言うことはもっともだった。
「処刑されていいんだ。霊媒師が生きていれば、俺が潔白だと分かるだろう?」
「そうなると、ジノ様を怪しんでいた人が、怪しくなるってことですね?」
「そうだ」
「ルミナは俺の陣営だと最初から明かされているから……」
「それで、姫様は潔白ということに」
リネットが呟く。
「でも霊媒師がもし死んでいたら?」
ルミナの懸念は、充分起こり得る事態だった。
「……それなんだ」
「霊媒師の結果を知られたら困る人狼が、霊媒師を襲撃することがある。だから難しいんだ」
リネットはずっと考えていたが、意を決して口に出した。
「ねぇ」
「私が味方かどうか分からないのに、そんな話をして大丈夫なの?」
ジノは溜め息をついた。
「お前は村側だろ?」
「信じてくれるの?」
「お前が人狼側だと思ったら、そもそも部屋まで連れて来てない」
胸の奥がジンとし、リネットは少しウルっときてしまった。
(フォローしてやれないと言いながら、結局私のことまで気にかけてくれる。こいつってやっぱり……)
ゴーーーーン!
──突如、屋敷中に鐘の音が響き渡った。
もうすぐ0時を知らせる鐘の音。鐘が鳴り止むまでに部屋に戻る必要があった。
「もうそんな時間か?」
(……話し足りなかったが、仕方がない)
「私達も部屋に戻りましょうか」
「あっ、はい姫様」
ゆっくりとルミナが立ち上がり、リネットもそれに続く。
「それでは、おやすみなさい」
「……死ぬなよ」
襲撃は今夜からで、明日は朝から話し合いの場が設けられ、夕刻に誰か必ず一人を処刑するルールになっている。
ジノはただの『村人』。二人を守る特殊な術を持たない。
村人の主な仕事は、地道に推理をしたり、主要な役の代わりに襲撃を受け、犠牲になること。
(でも流石に初日から、襲撃されんのはちょっと、つまんねーよなぁ……)
しかし、その晩いくら待っても、人狼が襲撃しにくることはなかった。
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