『不良品だ』と言い張れば 法律もゴブリンもだいたい黙る
闇夜に煌々と窓が光る列車を背後に、線路に沿って長い列が続いていた。
「沈没船を見捨てるようで、少し切ないですね」
名残惜しそうに列車を振り返るルゥに対し、ルディはピシャリと言い放った。
「感傷的になってる暇なんかない」
双子に支えられ、ルカはまだ正気を取り戻せてなかった。
「もう置いて行こうか、こいつ……」
ルディが呟く。
リリィのルカへの被害は甚大のようだ。
(これ以上、人と関わるのは面倒だな)
ジノは顔が隠れるように、マントを深く被った。
(俺が被害に遭わなきゃ、どうでもいいが)
「あっ!」
突然、リリィが叫んだ。
「私は乗客の皆さんの誘導の途中だったわ!」
「じゃ、また後でね!」
ばちんと音がしそうな程のウィンクをし、列の先頭に走って行ってしまった。
「……あの人は結局、何だったの?」
リネットが首を傾げる。
「あれは、嵐だ……」
漸く己の足で歩き始めたルカが呟いた。
その顔には、あちこち鬱血の跡が見受けられた。
「……私達は天災に巻き込まれたんだ」
「さぁ行こう、兄さん」
双子に付き添われ、心配そうな兵士達が慌ててその後に続く。
(何だかなぁ……)
よくよく考えれば、ジノがリリィを避けた所為で、ルカが犠牲になった。
(かといって、俺だって被害者になるのは勘弁だし)
「ジノ様、私達も参りましょう」
「あぁ」
ルミナに促され、並んで歩き出す。
「ていうか、寒過ぎるぅ!」
ネネがジノの懐にスッと潜り込んだ。
それを見てルミナは少し表情を曇らせた。
「ジノ様のそこは私の……」
言いかけてルミナは黙る。
「何だ?」
「いえ……何でもありません」
(ハムスターになっていた時の、私の場所だったのに……)
「……それにしても冷え込みますね」
吐く息が白い。
一応皆、マントやケープを羽織ってはいるが、夜間の冷え込みまでは想定していない。
「ねぇ、選抜試験てどんななんだろうね?」
「……知らねーよ。試験とか面倒くせぇよ」
「塔主様の甥だから? 随分と余裕なのね」
リネットはふと考える。
「塔主様って、ジノと姫様を結婚させたがってるし、ひょっとして出来レースなの?」
「公平な試験じゃないと困るわ……」
ぶつぶつ不平を呟くリネットに、ジノは投げやりに言う。
「流石にその辺は公平だろ」
「リネット、試験頑張って下さいね」
ルミナの言葉が、建前にしか聞こえないリネット。
「姫様はどうせ、ジノしか応援しない癖に……」
「……そんな」
微妙な空気が流れる。
「……」
ふと、ジノは異質な気配を察知した。
何かが物凄い勢いで、こちらに近づいて来る。
──その時だった。
「うわあああーーーーっ!!」
列の後方で、悲鳴が聞こえた。
「何事でしょう?」
一瞬にして、緊張が走る。
「……お前達はここにいろ」
ジノは素早く悲鳴のした方へ、走り出した。
「そんな、自分だけ抜け駆けなんてズルい!!」
「ルミナや他の客を見てろ」
「!!」
そして夜目の利くジノにははっきりと見えた。
闇夜に光るヘッドライト、トレーラーを引いた小型のバイクに跨るのは、どう見てもゴブリンだ。
乗客の列から距離を置いて、停車している。
「ゴ、ゴブリンだーーーーっ!!」
「……そんな、叫ばなくてもいいゴブ」
「モンスターが何の用だ?」
「ニンゲンが困っているのを聞きつけて、来てやったゴブ。出張ゴブゴブマーケットゴブよ」
乗客達のゴブリンへの反応は冷たい。
石でも投げそうなレベルだ。
ジノは臆せずにゴブリンに話しかける。
「防寒具、あと水や食糧はあるのか?」
「勿論あるゴブ」
「それなら、希望者に配ってくれ」
「……お客さん、先立つものはお金ゴブよ」
「支払いは、前の方にいる赤毛に言ってくんね?」
「分かったゴブ」
ゴブリンはバイクを走らせ列の前へ向かう。
「お前、ゴブリンの味方なのか!?」
一部の乗客がジノを詰る。
「ああいう、中立の奴もいるんだよ……」
ジノは呟き、自分も列の前方に向かって走り始めた。
ルカはバイクのエンジン音に気付き、乗っているのがゴブリンだと分かった途端に叫んだ。
「な、何者だ!?」
「……いや、兄さん。どう見てもゴブリンです」
ルゥの呆れ顔に、ルカは少し吃りながらもゴブリンに話しかける。
「な、何用だ? このゴブリンめ!!」
「黒マントの胡散臭い兄さんに、金なら赤毛から貰えと言われたゴブ」
「黒マント……ジノ様のことか」
「……おぉ、悪い悪い」
そこに駆けつけたジノが、ルカとゴブリンの間に割って入る。
「ゴブリンの商人だ。こいつらは完全に中立」
「あ、聞いたことがあるわ。話が通じるゴブリンよね」
リネットが口を挟みつつ、ゴブリンをマジマジと見つめる。
野良のゴブリンと違い、装備に拘りがある。
ゴーグルに赤いスカーフはかなり特殊だ。
「……全然可愛くない」
「何だと!? この小娘が!!」
「……語尾にゴブ付けてない」
「ゴブ」
「……」
「何でもいいから、とりあえず商品見せろや」
ゴブリンはバイクを降り、トレーラーの中を見せる。
所狭しと様々な商品が並んでいる。
その中から、折り畳まれた薄汚いマントを一枚取ると、ジノはルミナに渡す。
「寒いなら羽織っとけ」
ジノがルミナにマントを被せた。
「お前ずっと寒そうにしてたから」
「!」
ルミナはジノの気遣いに感激する。
しかし、ゴブリンがそれを見て言った。
「お客さん、そのマントはお高いゴブよ……」
一見すると、なんの変哲もないマントだ。
「支払いなら、そこの赤毛が」
「幾らだ?」
「20万Gゴブ」
「は?」
ルカ一同目が点になる。
「どんな魔法も効かない特別なマントゴブ」
「それは本当なのか? 信用出来ない」
慎重なルカは支払いを渋る。
ジノは無言でトレーラーからマントをもう一枚取ると、ゴブリンに放り投げて被せると同時に、最高火力で魔法を放つ。
「ゴブャーーーーーーーーッ!!」
綺麗にマントごとゴブリンが燃えた。
「……不良品だ。タダでいいな」
黒焦げになったゴブリンを尻目に、ジノは残りのマントを希望者へ配った。
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