『思い込んだら一直線』なんて聞こえはいいが 大抵はただの猪突猛進な大迷惑である
宙から現れたのは、灰金髪の若い男だった。
深い紺色の、金の刺繍の施されたローブを身に纏い、丸い銀縁眼鏡を掛けている。
その奥の瞳の色は琥珀色に輝いていた。
「私がジーク・フォン・アインハルト」
「初めまして、ゼノヴィス」
「は?」
(ゼノヴィスは俺の本名だが、本名は基本明かすなと母さんに言われてたのに……)
悠然と笑う姿は、何処か懐かしさすら感じる。
「──まさか」
「……うん、そのまさかで、私はお前の叔父だね」
「ジーク様ぁ!!」
ネネはルゥから離れて、ジークの元へ走り寄る。
しかし見事に避けられた。
「ひん!」
「この役立たずが……」
打って変わって低い声でネネをなじる。
「もっとスマートにさっさと任務を遂行しろよ……お前は本当に使えない」
「え〜ん、ごめんなさ〜い」
ネネはドロンと小さなコウモリの姿に変わり、ジークの懐に逃げ込んだ。
「こいつは私の使い魔でね」
「元は化け吸血コウモリだが、私の血を与えて強化した」
(魔力を高めるには血を……というが、実践したのがこれなのか)
「乗客の一部は、ネネの眷属になっていた筈だが、お前が上書きしたね?」
「……」
目の前の男が、叔父なのはジノも否めない。
血の繋がりというものを、嫌というほど実感する。
(見れば見るほど、母さんにそっくりだ……)
「周りくどいのは私も嫌いだし、単刀直入に言うが」
「帝国皇太子と、ルミナス王国の王女の結婚は、何としても阻止せねばならんのだ」
「理由は?」
「皇帝一家は既に魔物の手に落ちている」
「!」
「現皇帝は、既に魔物の傀儡だ。次期皇帝と目される皇太子に至っては、とうに魔物にすり替わっている」
ジークは語気を強めた。
「王女をたとえ消してでも、阻止せねばならなかったんだ」
「皇帝は結婚を期に、皇太子へ譲位する」
「つまり帝国は魔物が支配する国になってしまう」
ジークの話を聞き、ジノは彼の意図を理解した。
その上で自分の意思をはっきりと伝える。
「……俺は姫さんの護衛だ。俺の目の前で、みすみす姫さんを死なす訳にはいかない」
「あんたがたとえ魔導の塔主でも、俺の叔父だとしても、姫さんに害なす奴なら、俺は許さない」
その気迫に、ジークは感心した。
「へぇ……お前、まさか王女が好きなのか?」
「は?」
「……分かった分かった、すまなかった」
「可愛い甥の想い人となれば、話は変わる」
腕組みをして、ジークはうんうんと頷く。
「たとえ相手が他国の王族だとしても、帝国貴族であり、魔導の塔主の甥ともなれば、身分も釣り合う」
「おいおい、ちょっと待て」
(どうしてそうなるんだ?)
「俺は別に……」
「遠慮しなくていい。私が全てお膳立てしてやるから、皇太子との結婚をぶち壊すのを手伝え」
「まず、王女を紹介して貰おうか」
「……」
(思い込んだら一直線なところ、母さんと一緒じゃねーか……)
ジノは生気を失っているルゥを指差した。
「ていうか、まずはこいつの洗脳を解け。あとは乗客の回復も。全部元通りにしろ。話はそれからだ」
「やれやれ、ゼノヴィスは人使いが荒い……」
ジークは言われた通り、ルゥと乗客を全て治療し、上機嫌でジノの前に立った。
正気に戻ったルゥに事の顛末も含め、軽く説明した。
「まさかジノ様が、魔導の塔主の甥御だとは」
ルゥは驚きが隠せない。
「では約束通り、王女を紹介しておくれ」
「変な真似したら、例え血の繋がったお前でも、許さんからな?」
「……おぉ、怖い怖い。この世で唯一の血の繋がった身内なのに、私がお前の嫌がることをする訳がなかろう?」
ジークはよよよと泣き崩れるフリをする。
ジノは呆れた目つきでそんなジークを睨んだ。
「……その目、姉上にそっくりで笑う」
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