暴走する列車を止めるより、ラストでドヤ顔(声)で割り込んでくる黒幕の解説を止める方が先
異変はすぐに現れた。
大きなカーブでも、列車は全く減速する様子がなく、車体が大きく傾いたのだ。
横転は免れたものの、列車内は騒然とする。
すぐにルゥが戻り、小声で告げた。
「大変です」
「どうやら、列車の制御が失われてます」
「どういうことだ?」
「機関士と連絡が取れず、この列車は暴走中です」
ルカは顔色を変えて、リネットに問い掛ける。
「転移で脱出は可能か?」
「距離にもよるけど、そんな大勢は運べないわ」
「私じゃ、せいぜい二、三人……確実なら私ともう一人だけ」
それを聞き、ルカは目を閉じて考え込んだ。
──そして口を開く。
「最悪、姫様だけでも……」
「それはなりません!!
ルミナが立ち上がり、車両内の皆の注目が集まった。
「あっ……」
居た堪れず、ルミナは再び席に座った。
「……何とかなりませんか?」
そうしている間にも列車の速度はどんどん加速していく。
「車掌によると機関室が暴走しているので、客車を切り離すしか」
話を一通り聞いて、ジノが立ち上がる。
「俺がちょっと見てくる」
すると、リネットも声を上げた。
「私も行く!」
「お前は残れ。最悪は、姫さんを連れて転移しろ」
「むぅ」
「それなら、僕も行きます」
ジノはルゥをチラッと見やり、
「勝手にしろ」
前方の車両に向かうジノに向かって、ルミナが叫んだ。
「ジノ様!」
ジノが振り返ると、ルミナは祈るように手を合わせて言った。
「必ずご無事でお戻りを……」
「……分かった」
前の車両に進むたびに、あることに気付く。
乗っている乗客に生気が全くないのだ。
「おい」
「……」
試しに話しかけてみるが、まともに反応がない。
「これは、どういうことでしょう?」
「どう見ても魔物が関与してるなぁ……」
構わず進み、一番前の車両に到着した。
車掌の姿は何処にもない。
ただ、一人の黒髪の幼い幼女が座り込んでいた。
「おい、どうした?」
声を掛けるとその面を上げた。
泣き腫らした赤い目。
白い顔に小さな赤い唇がやけに目立つ。
緩やかな波打つ黒髪は肩で切り揃えられている。
「迷子なのか」
幼女は頷いた。
「なるほどなぁ……」
幼女はジノに向かって手を伸ばす。
「抱っこ」
しかしジノはそれに応じず、横を素通りした。
「すまんが、お前の相手をしている暇はない」
機関車との連結部分を外す為、ドアを開けようとするが、案の定鍵が掛かっていた。
「なぁ、ここの鍵を知らないか?」
振り返ると、ルゥに幼女が抱っこされていた。
「そこを開けられたら、困るなぁ」
「どういうつもりだ?」
「ルミナス王国の王女の乗った列車が事故を起こし、帝国国民が大量に死ぬ」
「!」
「王女がそのまま死んだらなお良し」
「王女がもし転移で助かったとしても、この事故の責任を王女に被せればいいだけ」
目の前のルゥは間違いなく本人だ。
ただよく見ると、首筋に噛み跡が見える。
(既に噛まれてた話か)
「王女と皇太子の結婚など、認められない」
そう断言した幼女の瞳の色が、さらに赤く染まった。
「姫さん本人も、この結婚には乗り気じゃないみたいだぞ?」
いつの間にか、後ろの車両から、生気を失った乗客達が押し掛けて来ていた。
「……おいおい」
「邪魔立てするなら、容赦はしない」
幼女がサッと右手を立てると、それに呼応するかのように乗客達がジノに飛びかかった。
(チッ、数が多い)
乗客はあっという間にジノを取り囲むと、手足を押さえ付け、一斉に齧りつき、血を啜り始めた。
(俺の血を啜るのはおすすめしないんだが……)
(やっぱ噛まれるのは痛ぇ……)
「それだけ大勢に一度に血を吸われれば、失血死は免れまい……」
「……そんな簡単に死なないんだよなぁ」
「!」
ゆっくり立ち上がると、乗客達はジノの背後にサッと引き始めた。
「……お前ら、ここから先は手出しは無用だ」
ジノは前髪をかき上げて、その双眸を露わにした。
「赤い目!? お前はまさか……」
「……おい。誰に向かってそんな口利いてんだ?」
その言葉と共に、圧倒的な魔力がその場を支配する。
「名を明渡せ、お前の名は?」
「……ネ……ネネ」
「誰の差金だ?」
ネメアは震えた。そして絶対に逆らえないことを本能で知っていた。
「……ジーク」
「……ジーク? そいつは何者だ?」
怯えるネネに向かって、ジノは冷たく言い放つ。
「そいつについて、洗いざらい話せ」
「ひぃっ、話すから殺さないで」
「ジーク・フォン・アインハルト。帝国貴族で、現魔導の塔の塔主」
「魔導の塔の塔主だと?」
「何故、魔導の塔の塔主が、こんな真似を?」
「ひぃ、ジーク様に叱られるぅ」
「魔導の塔主が、列車事故を故意に起こして、その原因を他国の姫に擦りつけるだなんて、到底許される話じゃねーぞ?」
ネネはすっかり怯えきり、ルゥの首にしがみついている。
「……まぁいい。それより、この列車をお前は止められるのか?」
ネネは首をふるふると横に振った。
「それならそこを退け」
鍵なんて悠長なことは言ってられなかった。
ドアを蹴り飛ばして外に出ると、連結部分の鎖を難なく外す。
切り離された機関車は、そのまま暴走し闇夜に消えて行った。
「さてと」
客車の中に戻り、怯えるネネに更に詰め寄った。
「どうして、塔主が他国の姫を陥れてまで、こんなことをするんだ?」
その時、どこからともなく声が響いた。
「──それは私から説明しようか」
読んでいただきありがとうございます。




