魔導列車と兄妹と窓に映る君の瞳は、だいたいどれもロクな事の予兆じゃない
別室で待つルカ達を呼び、ルミナの意思を伝えた。
合わせて、皇帝に魔物との関連性についても話す。
ルミナから、侯爵夫人との顛末を直接聞かされれば、流石に頭の固いルカといえ、無視する訳にもいかなかった。
「クロムウェル侯爵夫人か……」
「侯爵夫人の立場の人物が魔物、若しくは魔物とすり替わっていた可能性か……」
「倒しちまったし、詳しくは知らね」
夫人を問答無用で倒してしまったジノが言う。
(まぁ、今度そういう奴がいたら、殺す前に口を割らせるか……)
「その件に関しても調査は入れよう」
そして、ルカからさまざまな設定が提示された。
「勇者の存在を、帝国側に知られたくはないので、ジノ様には、このまま魔導士として同行して頂く」
それにルゥがすかさず頷く。
「冒険者として登録もなされているので、それについては帝国側に調べられても問題はないかと」
「帝国側に新しい勇者の存在が知られたら、面倒なことになりかねない」
「……どういうことだ?」
ジノは首を傾げ、ルカに問う。
「先代勇者は帝国出身で、帝国側は勇者の人権を無視し、兵器として扱った」
「!」
「元々勇者が、帝国建国に関わる名家の出身だったこともあり、家族を盾にされたらしい」
ジノは言葉に詰まる。
「ジノ様……?」
「……あぁ、別に何でもない」
(母さんが帝国出身だとイリアスに聞いたが、そういう事情があったとは……)
(俺には何も話してくれなかったな)
「先代は亡命し、それを我が国が保護した。公式に国を挙げて勇者を支援するようになったのはそれからだ」
「それじゃ、勇者が見つかったら普通に捕まっちゃうじゃない!」
リネットがジノを見ながら声を荒げた。
その様子に、ルカは眉を顰める。
「……そうだ。つまり勇者はこの国ではお尋ね者だ」
(おいおい、何処へ行っても俺の平穏はないじゃねぇか……)
その日の夕刻の列車に乗り、一同は帝国首都アイゼンガルツまで目指すこととなった。
「従者となる為、姫様に対するその言葉遣いは改めよ」
あれこれルカに指示され、ジノは投げやりに返事をする。
「……はいはい」
(面倒くせぇ……)
「お前らの兄さん、どうにかならんのか……」
ジノは前の座席の双子に思わず愚痴った。
「……僕らも正直言って、面倒くさいと思ってますよ」
「おい、ルゥ! 安易に口に出すな。兄上に聞かれたら……」
双子の反応からして、ジノは双子なりの苦労を知る。
ルミナは結婚話が出てから、ずっと人が変わったように大人しくしている。
何もかも二つ返事で対応するルミナ。
「マリッジブルーってあんな感じなのかしら?」
リネットが反対側の座席のルミナの様子を見て呟く。
その隣に座るジノは素っ気ない。
「まず、普通の結婚と訳が違うし」
「……結婚ねぇ。私達庶民は、自由に結婚出来るし、まだ幸せなのかしら」
定刻通りに列車が発車し、リネットは目を輝かせた。
「魔導列車ってこんなに静かなんだ」
蒸気で走る王国内の列車と違い、帝国の魔導列車は魔鉱石を燃料にして走る。
魔法科学については、王国は後進国だ。
「実は私ね、帝国の魔導アカデミーに留学が決まってるの」
「魔導アカデミー?」
「魔導士を名乗る癖に何にも知らないのね」
「……」
「……帝国の魔導アカデミーはね。世界最高峰の魔法を学べる国営の機関で、入学するには厳しい試験があるのよ」
「成績優秀者は、帝国で士官も可能だし、魔法研究の真髄でもある、魔導の塔にも入れる」
リネットの話を聞き、ジノはふと思う。
「それ学んでも、結局帝国に抱き込まれるのがオチなんじゃねぇの?」
「世界中から、優秀な人材を集めてるだけにしか思えない」
ジノの言い分に、リネットは呆気に取られた。
「一応、魔導の塔は、一般的なギルドと同じで、何処の国にも所属しないスタンスだけど」
少し考えて、リネットは頷く。
「……確かに。あんたの言う通りかも」
「現に帝国は、この列車のように魔導研究の恩恵を一番に受けてる……」
(魔導の塔か……魔物に関する研究もしてるし、立ち寄るのはアリかもな)
(魔物と魔法の関係は切っても切れない……)
ジノはボーッと車窓から景色を眺める。
すっかり日が暮れて、ろくに街頭もない外の様子はあまり分からない。
その時、通路を挟んで反対側の席に座るルミナの姿が窓に映っていることに気付いた。
窓越しにルミナはこちらを見ているかのようだった。
(姫さんは、俺を見ているのか……?)
ジノは前髪を下ろしたままなので、こちらの視線は分からない筈。
ルミナの淡い水色の瞳は、何処か切なげで、何かを訴えるようだ。
ジノは思わず視線を逸らす。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「……いや、何でもない。てかその“お兄ちゃん”いい加減辞めろよ」
「え? 私達このまま兄妹ってことでルカ様が……」
「は? そんな話、俺は聞いてないぞ」
リネットはあっと閃く。
「あっ、いっそ、お兄ちゃんも一緒に魔導アカデミーに留学する?」
「お兄ちゃんなら、入学試験も余裕でしょ?」
その時、唐突に車内アナウンスが入った。
『誠に申し訳ございませんが、次の駅ヴェストハーフェンは諸事情により通過致します』
途端にざわつく列車内。
首都アイゼンガルツへ向かうには、次の駅で乗り換える必要があったからだ。
「何? どういうこと?」
「ちょっと、車掌に問い合わせて来ます」
前の席のルゥが即座に立ち上がり、前方の車両に向かって行った。
心なしかスピードが上がっている気がした。
(これは何だか嫌な予感がする)
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