政略結婚という名の強制イベントは 大抵血生臭い匂いと一緒にやってくる
目の前で、串焼きを頬張るリネットを呆れ顔で眺める。
「落ち着いて食え。もう逃げねーから……」
「もう一本頼んどいて?」
「……」
ジノは怠そうに財布を出し、串焼きを追加で注文した。
「ねぇ、あんたが勇者って本当なの?」
「そういうことになってる」
リネットはジノの尋常じゃない魔力を目の当たりにし、素直な感想を口にする。
「勇者っていうより……どちらかというと魔王よ」
「!」
(こいつ、何気に本質分かってんのヤバイな)
「生まれつき、ちょっと魔法の才に長けててな」
「私も同じように天才て持て囃されたけど、あんたはその上をいく。悔しいけど……」
リネットはジノをジッと見つめる。
重い野暮ったい前髪のせいか冴えない印象だ。
「……見た目は私の方が上ね」
「悪かったな」
(一体、こいつの強さの理由は何なの?)
「で、どうして勇者が逃げようとしたの?」
「……色々と面倒だからだよ」
「どんな?」
詮索されるのが好きではないジノは、流石に少し苛立ってくる。
「食いながら話すな。行儀が悪い」
「……はーい、お兄ちゃん」
「……」
食べ終わったリネットに引っ張られ、転移で宿に帰還した。
(転移なぁ……使えたら便利なんだが……)
一般人を目指すジノからしたら、ところ構わず転移で現れたりするのは、どうにも二の足を踏む。
ルミナの部屋の前に出たので、そこまで調整出来ることにやや驚いた。
リネットがドアをノックする。
「誰だ?」
「リネットです」
ドアが開き、やや疲れた面持ちのルディが顔を出す。
「戻ったか……」
ジノの顔を見て、やや安堵した表情を見せる。
「……中に入れ。これからのプランが少し変わる」
部屋の中に入ると、ベッドに身体を起こしたルミナがジノの顔を見るなり、泣き崩れた。
ポロポロ大粒の涙を流して、周囲を慌てさせる。
「あっ、おい……」
「も、申し訳ありません」
ジノは自分が泣かせたようで、ばつが悪い。
ルミナの精神状態で、結局眠ることは出来ず、横になることに留めていた。
(問題は山積みだが、ジノがとりあえず戻ったのは良かった)
ルディはこれからルミナの為に、どうするべきなのかを考えるが答えが出ない。
「まず、姫様に帝国皇太子との縁談が持ち上がった」
「!」
寝耳に水とはこのことで、ジノは反応に困った。
この一瞬の間にも、ルミナは神経をジノに集中させてしまうのだが、ジノの反応は大体予想通りだった。
「……へぇ」
(侵攻するって噂がある中での、縁談……つまり人質に近い話か)
「で、俺にどうしろと?」
「それを今から考えようとしている」
ルディはリネットをチラリと見た。
「……あ、私? ひょっとしてお邪魔?」
「ルゥを呼んできてくれ」
リネットは不満そうに頬を膨らます。
少し考えて、部屋を出ていく。
そして、リネットに呼ばれたルゥが部屋に戻ってきた。
「ジノ様、良かった〜」
ルゥはジノの姿を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「お前こそ、平気だったんか?」
「僕の方はこの通りですよ。お騒がせして、申し訳ありませんでした」
(姫様の為にも、戻って来てくれて本当に良かった……)
ここで漸く、帝国潜入パーティメンバーが揃い踏みとなった。
「政略結婚つうか、ほぼ人質の話だよな」
「……ですから、姫様をそんなところに行かせられません」
ルディの意見は一貫している。
「でも、私はこの話を断れません……」
「……姫様」
「私が断れば、帝国に攻め入る理由を与えることにもなりかねません」
ルミナの顔は青白く、唇は震えていた。
「じゃ、結婚すんのか?」
「皇帝は既に魔物と関わっている可能性が高いぜ?」
ルミナは侯爵夫人が皇帝と繋がりがあるのを示唆していたことを思い出す。
「もし、そうだとしても……こちらからは断れません」
(国の為なら私に選択の自由などない……)
「あの、その縁談の話なんですけど」
「実は兄さんが大使として帝国側に返事に行くんですよ……」
その話を聞いて、ルディは合点がいく。
「だから、あんなに兵士を堂々と引き連れているのか」
ジノの捕縛の為だけに、あれだけの兵士を連れて来たとは到底思えなかった。
「側近の騎士を一人も連れて来ていないのは、何かあった場合、兄上不在の騎士団を纏めさせる為」
「転移を使えるリネットを連れて来たのもそういうことか」
(やっぱりあの兄は、まんざらアホじゃないんだな)
「兄さんは、このまま帝国首都に向かうそうです」
「姫様も含め、我々も同行を許可されています」
一同、顔を見合わせる。
「それで、我々はどうしますか?」
そう言われ、ルミナはジノを見つめる。
訴えるような視線に、ジノは堪らず口に出した。
「……行ってみるしかない。そして相手が魔物なら、俺は倒すだけだ」
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