『正義の味方』を名乗る奴ほど、大抵の場合人の話を聞かない
「つまり、捕縛命令が活きてる話よな……」
「いたぞ、誘拐犯だ!」
表の通りから、数人の騎士が回り込んで来た。
「面倒だなぁ……」
反対方向に走り出すが、行く手を阻むかのように、一人の少女が立ちはだかった。
「ここから先は通さない。この姫様を攫った極悪人!!」
(やれやれ、とんだ情報が錯綜してんのな)
長い黒髪のポニーテール。
先が星型の特徴的なワンドを手にしている。
背格好はルミナとそう変わらない。
漆黒の瞳が、ジノを睨み付ける。
「縛る!」
「すまんな、俺には効かないんだ」
「!」
少女を無視し、その脇を通り抜けようとする。
「私の魔法が効かない……?」
少女は歯を食いしばった。
「多少怪我をしても、仕方ないんだから!」
少女がワンドを振ると、鋭い風の刃が飛ぶ。
(詠唱破棄か……なかなかやるじゃないか)
ジノは風の刃を全て難なく避けると、少女に向かって叫んだ。
「縛る」
少女はその場で動けなくなった。
「えっ? ちょっと!! 」
「……バーカ。魔法はこうやって使うんだよ」
ジノがパチンと指を鳴らすと、少女の全身を電撃が走った。
「きゃああああああああっ!!」
少女はその場に崩れ落ちた。
気を失った少女を尻目に、ジノはその場から駆け出した。
ところ変わって、喧騒の宿屋の一室。
「……ルゥ。これはどういうことだ?」
赤く長い髪を靡かせて、両腕を胸の前で組んで立つ。
こう見ると、王国聖騎士団団長の威厳は半端ない。
ルゥは兵士に拘束され、身動きが出来ない。
「どういうことも何も、兄さんはこちらの話をまず聞こうともしないじゃないか……」
兄さんと呼ばれた人物は、長身の身を乗り出して、窓の外を見やる。
「お前は誘拐犯を逃したんだぞ? これは立派な反逆罪だ」
「……誘拐犯じゃないってば」
ルゥは溜め息をつく。
「連絡の行き違いなんだよ。彼がやっと見つけた勇者様なんだ」
「は?」
「勇者が見つかった報告は受けてない」
「だから今言いました」
「……」
「そもそも、怪しい男が国境付近に向けて逃走し、その男に接触した可能性の高い姫様も行方が知れないと……」
「俺は居ても立っても居られず……」
自分に酔ったように語り出すのは兄の悪い癖だ。
ルゥは呆れつつ、
「一つずつ説明するから、頼むから聞いてくれる?」
その時、兵士の一人が部屋に飛び込んで来た。
「ルカ様、リネット様がやられました」
「何だと?」
カッと青い目を見開き、ルカは拳を握りしめた。
「あの極悪人め……」
ルゥは半眼になって、兄を見つめた。
「……誰か、姉さんを。ルディと姫様を呼んで来て」
このままじゃ埒が明かないので、当事者をここへ呼ぶ方が早い。
「それで、リネットの具合は?」
「怪我は大したことはありませんが、暫く動くのは難しいかと」
「相当の手練れのようで、リネット様がまるで手も足も出ずに……」
その場でルカは憤慨する。
「あいつは我が国きっての天才魔導士だぞ? そのリネットが手も足も出ないとはどういうことだ?」
ルゥは思わずほくそ笑んだ。
(そりゃ、只者じゃない勇者様が相手じゃ、あの生意気な小娘なんか勝てる訳ないじゃないか……)
「ルカ様、姫様とルディ様です」
部屋に入って来るなり、ルミナが叫んだ。
「ルゥ! これは一体どういうことですか?」
拘束されているルゥの姿に、ルミナは我慢がならない。
「姫様、お久しゅう御座います。ご無事で何よりです」
ルカはその場で頭を垂れ、跪いた。
「……ルカ。これは一体どういうことですか?」
「この不肖の弟は」
「逃亡犯を庇い、この場から逃しました」
ルディはこの場にジノが居ないことで全てを察した。
「兄上。ジノは逃亡犯でも何でもないんです」
「あいつが勇者です」
「あれが勇者だって? 冗談だろう?」
ルカは逃げた男を思い出す。
黒い前髪は重く、顔はよく見えず、身体も細かった。
騎士団の入団テストに来たら、顔を見ただけで落とすレベルだ。
「ルカ、ジノ様が間違いなく勇者様なのです」
ルミナの毅然とした声が響く。
「聖剣が彼を選びました」
「!」
「彼に対する捕縛命令を今すぐに取り下げて下さい」
読んでいただきありがとうございます。
とうとう30話かー…。
自己満で書いてる趣味のお話に、ここまでお付き合いありがとうございます。
読んで下さっている僅かな人の為にも、頑張りますw




