『ただの仲間』という言葉は、使う側にとっては盾だが、言われる側にとっては剣になる
冒険者ギルドに戻り、クエストクリアの報告を済ませると、既に空が白み始めていた。
「みんな、お疲れ様!」
いつの間にか、ギルドの制服に着替えたリリィ。
一人ずつ、クエストの報酬金を手渡す。
「三人で折半すると、一人600Gね」
(微妙な金額だなぁ……)
「……あの、皆さんありがとうございました!」
トビーは戦士Lv.2になっていた。
「今回の件で、僕は冒険者に向いてないことを実感しました。本日限りで、引退したいと思います」
「そうか。お疲れ様」
「ちょっと、ジノたん!」
リリィが目に涙を溜めて、ジノを咎める。
「どうしてそんなあっさりなの? 一緒に戦った仲間じゃない!!」
(いや、倒したの俺だし。そもそも即席で組んだだけだろ?)
「もっと労ってあげて……」
「良いんです、リリィさん。ジノさんは、僕がパンを焼いている方が、人の役に立てるって気付かせてくれました」
「トビー…!」
「……」
ジノは二人を無視して、ギルドカードを確認した。
魔導士Lv.1、パラメータは相変わらず“ー”のまま。
そのまま、隣のルミナのカードを覗き込む。
「私もレベルに変化はありませんね」
「元々Lv.25あったもんな」
つまりスケルトン如きでは、レベル上げには適さないのだ。
「今回はあくまでチュートリアルですし……」
心なしか、ルミナの元気がない。
「どうした?」
「……えっ? 何でもありません。大丈夫ですよ!」
そう言った瞬間、ふっと視界が揺れる。
足元の感覚がわずかに遠い。
それでもルミナは笑顔を崩さなかった。
(朝から忙しかったし、疲れるのも無理はない)
「よし、今日はもう帰るぞ」
ジノが踵を返した瞬間だった。
ドサッ!
背後で倒れる音──ルミナがその場で昏倒した。
「ルミナ!」
慌てて抱き起こす。
一瞬気を失っていたようだが、すぐ意識を取り戻した。
「すみません、ちょっと眩暈がして……」
「ルミルミちゃん! 大丈夫!?」
リリィ達も心配して駆け寄った。
「初めてのクエストだし、相当疲れたのね。無理もないわ」
「連れて帰る」
リリィが手伝い、ジノはルミナを背負う。
「あ、同じ宿に泊まってる? 二人はどういう関係なの?」
「ただの仲間だよ」
(これ以上、詮索されるのも怠いから、さっさとずらかろう……)
「今日は帰る。また来る」
「あ、ギルドカードのことはマスターに聞いとくわ」
「分かった、頼む」
冒険者ギルドを後にし、宿へ向かう。
まさかこんな時間まで掛かるとは思わなかった。
「……ジノ様、申し訳ありません」
「そのまま寝てろ」
ルミナはジノの首に腕を回し、しっかりしがみついた。
「……」
──ただの仲間。
その言葉がルミナにとっては思ったよりきつかった。
(勇者であるジノ様のサポートが使命なのだから、割り切らなきゃ……)
(お役に立てるように頑張らないといけないのに)
ルミナの目尻に涙が光る。
宿の前で、双子が待っていた。
「あっ、帰って来た」
「姫様!?」
ルディがいち早く駆け寄り、ルミナの状態を確認する。
「流石に疲れたんだと思う」
「ここ二日、まともに寝てらっしゃらないので」
「一体、誰の所為でしょうかね」
嫌味たっぷりにルディが呟き、ジノは耳が痛い。
「姫様、私がお運びします」
「……」
「俺がこのまま部屋まで運ぶから」
ルディに案内され、ルミナの部屋まで運ぶ。
「姫様と私、お前はルゥと同部屋だ」
一番良い部屋らしく、部屋は広々としていた。
古いが、よく手入れされ清掃は行き届いている。
ベッドに寝かせるなり、ルディが仏頂面のまま、
「さっさと、部屋に戻ってお休み下さい」
「はいはい」
「ジノ様、こちらですよ」
ルゥの後に続き、自分の部屋へ移動した。
「姫さんのお守りも大変だな」
「それが僕達の仕事なので。子供の頃からですし」
自分のベッドに横になり、天井を見上げた。
「お前の姉さん、俺にあたりキツくね?」
「……姉は、一度こう思ったら、融通が利かなくて」
「ご迷惑をお掛けし、申し訳ありません」
ルゥも手を焼いているのは感じ取れた。
「で、そっちは何か収穫あったのか?」
「やはり、王国側への物流は、意図的に抑えられているようです」
「冒険者ギルドは、魔鉱石採取依頼が多いってさ」
二人は押し黙る。
「もう少し調べて見ます」
「どのみち姫さんがあんな感じだと、当分はこの町に足留めだろう?」
「少なくとも明日一日は、休息は必要ですね」
(それなら、冒険者ギルドにまた顔を出すか…)
すっかり外は明るくなっていたが、二人はとりあえず眠ることにした。
階下から何か言い争う声が聞こえ、ジノは目を覚ました。
身体を起こすと、隣のベッドでルゥはまだ寝息を立てている。
階段を上る靴音が重く響く。
部屋の前で足音が止まり、激しくドアを叩かれた。
「ここを開けろ!」
「……何事です?」
流石にルゥも目を覚ました。
「ルゥ、貴様がここに居るのは分かっている!」
その声にルゥは慌てて飛び上がった。
「や、ヤバイ……」
「何がヤバイんだ?」
「早く支度して下さい、窓から逃げましょう」
「は?」
(いや、ここは二階なんだが)
ルゥの慌てっぷりは尋常ではない。
状況を察したジノは、言われた通り荷物を纏めた。
「逃げればいいんだな?」
「早く!」
追い立てられるように窓を開け、振り返った瞬間、ルゥに突き飛ばされた。
落ちる間際に、ドアを蹴破って入って来た人物の赤い髪が一瞬見えた。
ヒラリと難なく地面に着地して見上げる。
ルゥが赤い髪の人物を抑えているのが見えた。
「は、早く逃げて下さい!」
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