筋肉とフリルと盾の無駄遣い、あるいは魔法なんて殴るための序章にすぎない
深夜の墓場は、妙に静かな雰囲気がある。
闇夜の中、早速一行は前方に白いスケルトンの群れを見つけた。
「トライアングルフォーメーション+α!!」
リリィの合図と共に、陣形を組む。
戦士のトビーを先頭に、後衛にジノ、ルミナ、そしてリリィ。
ムキムキの上半身にピッタリと沿った、赤いマーメイドラインのドレスの裾に大きなフリル。
赤い羽の付いた扇子を持って、リリィは構えた。
「私がバフを掛けるから、みんな頑張るのよ!」
場違いな程の華麗なステップで、踊り出す。
ルミナは口をぽかんと開けて固まり、ジノは溜め息をついた。
(いや、何で踊り子なんだよ……)
「どう見ても、その逞しい腕で、攻撃をする方が強いだろ……」
ボソッと呟くが、リリィには聞こえていないようだ。
トビーはへっぴり腰で、盾を構えて突っ立っている。
小手の先から覗く腕は、驚くほど細い。
「が、頑張るぞ!」
(いや、それでどうやって攻撃するんだ?)
なるべくリリィを見ないようにしているが、チラチラ視界に入るのが、激しくうざい。
ルミナはリリィの踊りに釘付けで動けない。
(デバフになってんじゃねーか……)
3体のスケルトンが、既にトビーに迫り、盾に引っかかって、こちらまでは来れない状況だ。
リリィのバフで力は上がっているようだが、後方に控える第二波はきっと防ぎきれない。
盾で攻撃を必死に押さえていたトビーがしゃがみこみ、その上から一体のスケルトンがトビーに襲いかかる。
「チッ」
ジノは仕方なく素早く動いて、スケルトンを杖で殴った。
頭部を粉砕し、そのまま残りの二匹も片付ける。
「魔法より、殴った方が早い」
トビーを飛び越え、後方にいたスケルトンを問答無用で杖で叩き潰していく。
辺りにいたスケルトンは全て全滅したようだった。
(ちょっと懐かしいな)
村にいた頃を思い出して、少し感慨に耽る。
「一応、燃やしとくか……」
魔導士という建前なので、粉々になった骨に向かって、火の魔法をかける。
加減を間違え、火の柱がゴオォーーーッと巻き上がる。
一瞬で、夜が昼のように照らされた。
「……やっべ、やり過ぎた」
慌てて水の魔法で鎮火し、白い煙が立ち上るのを確認してから、皆の元へ戻った。
幸いなことに、長老の杖は無事だった。
(これが壊れてたら、姫さんに早速謝る羽目になってたな)
「えっ? 全部倒したのですか?」
盾の裏で、縮こまっていたトビーは、状況を理解するのに、多少の時間を要した。
「あぁ、お前がスケルトンを押さえてくれてたから、俺がちょっくら魔法でな……」
「僕は、お役に立てたのですか?」
キラキラした瞳で真っ直ぐに見つめてくる。
「あぁ……たぶん?」
ジノは思わず視線を逸らした。
トビーは感動に打ち震え、泣いていた。
すれ違いざまに、ジノはトビーの耳元で囁いた。
「お前はパンを焼いてる方が、人の役に立てると思うぞ? 俺からの最初で最後のアドバイスだ」
「!」
「……おい、ルミナ」
「はっ! ジノ様!?」
放心していたルミナが、ジノに呼ばれて我に返る。
「お前、リリィに見惚れてどうすんだ……」
「ひょっとして、戦いは終わったのでしょうか?」
「見ての通りだ」
ジノの後方で立ち上る煙をルミナは認めると、
「も、申し訳ありません!!」
その場に平伏し、ジノはやれやれと溜め息をついた。
「チームワークの勝利ね!」
リリィのダンスのステップが、いつのまにかガラリと変わっていた。
「勝利の舞よ!!」
(……いや、俺が一人で片付けただけだろ)
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