聖剣ってのは持ち主を選ぶもんじゃない、持ち主に『呼ばれる』のを待ってるだけの従僕(パシリ)だ
「ジノ様……あの方は?」
ルミナに一部始終、全て見られてしまった。
「あれは魔物だ」
撫で付けた前髪をわしゃわしゃしながら、ジノはルミナに夫人の着ていたドレスを投げる。
「……あの、下着がないんです」
「あぁ…」
辺りを見回し、クローゼットを見つける。
中には女性物の衣装が沢山詰まっていた。
ただ、どれが良いのか、ジノにはよく分からない。
「俺は向こうを向いてるので、自分で選んでくれ」
回れ右をして、ルミナが着替えるのを待つ。
「あの、ジノ様……申し訳ないんですが」
「何だ?」
「背中のホックを止めて欲しくて」
(女の服って、いちいち面倒くさいな)
質問攻めに遭うかと覚悟していたが、ルミナはそれ以上、何も聞いてはこなかった。
ホックを一つ一つ留めていると、
「あの……申し訳ありません」
「私、きっと邪魔しちゃったんですよね」
おそらく、夫人を取り逃した時の事だろう。
「俺が押し倒された時の事なら、助かった」
背中を向けたまま、小さくルミナは頷く。
小さな肩が震えていた
「ジノ様が、その……他の女の人と……」
「私、どうしても我慢出来なくて」
「……」
(……まだこの城内にいる?)
ジノは神経を研ぎ澄ます。僅かに感じた魔力は、階下からだ。そして魔力が増大していくのも──。
「まだこの城に奴がいる」
「えっ? 侯爵夫人がですか?」
「行くぞ」
ルミナを連れ、階下へ向かう。
エントランスホールに戻り、魔力を感じる方へ。
そして、この城に来てから、ずっと感じる違和感。
途中ですれ違ったメイド達は、全員生気がない。
「……」
ダイニングルームを抜けた先の部屋、扉の前で一度立ち止まる。
「ここだな」
扉を開けると、想像通りとも言うべきか。
大きな暖炉の前で、メイドの首に噛み付く夫人の姿。
「……ふむ」
夫人は即座にジノに気付き、血を吸い尽くされたメイドは力無くその場に崩れ落ちた。
「吸血鬼!?」
ルミナは小さく震え上がった。
吸血鬼は魔物の中でも、高位に位置する。
「あなたの血で魔力を補給するつもりだったのに……」
「まさか同族とは……」
ルミナは首を傾げる。
(同族……?)
「あなたこそ、どうして人間の娘となんかつるんでの?」
「あっ、あれは!」
暖炉の上の壁に飾られているのは、見覚えのある剣だった。
「あぁ、これ? 」
「人間の勇者様の聖剣なのよ」
夫人は自慢げに聖剣について語り出す。
「……オークションで見つけたの。勇者以外これは使えないから。だから、今はただのアンティークね」
「ここに飾っておけば、私達が脅威に晒される事はないわ」
夫人はルミナをじっと見つめた。
「その娘、光に祝福されているわね」
「ねぇ、その娘を共有しない?」
思わぬ提案に、ジノは首を傾げた。
「どういう事だ?」
「その娘を差し出すなら、皇帝陛下に渡りをつけてあげるって言ってるのよ」
(皇帝……? この国の皇帝の事か?)
「あなた、その娘から血を貰ってるんじゃないの?」
怪訝そうに、夫人が尋ねる。
「それだけ光の生気に溢れているんだから、あなたの魔力の強さは彼女からなんじゃ?」
「……」
「……ジノ様?」
ルミナの視線を感じながら、ジノは呟いた。
「俺は彼女の血を吸った事なんかない」
「!?」
(どうやらこの国の皇帝も、魔物に関係している)
「話はそれだけだ」
壁に掛けられた聖剣が、カタカタと鳴り始めた。
侯爵夫人は驚いて振り向く。
ジノはスッと右手を伸ばす。
「──来い」
聖剣は自ら、ジノに向かって飛んだ。
右手で柄を握り、左手で鞘を引き抜いた。
──光り輝く刀身が現れる。
ジノの口元から、血が滴り落ちた。
身体の中が灼けるが、構ってなどいられない。
「ジノ様!!」
夫人は目の前の人物が誰なのか、身をもって知る。
真っ直ぐに自分を見つめる赤く昏い双眸は、まさにあの御方そのもの。
「……そんな! まさか」
ジノは聖剣を一閃する。
夫人の首が刎ね、床に無残に転がった。
「魔…王さま」
夫人の身体は瞬く間に灰になって消えた。
読んでいただきありがとうございます。
勇者なのに聖剣全然使わなくて申し訳ないです。
そのうちもっと使います……(多分)




