「『身綺麗にしろ』という言葉は、大抵『お前を美味しく頂く準備をしろ』という意味だ」
暗がりの中、夜目が利くジノは当たりを見回す。
檻が辺りに幾つも無造作に置かれ、同じように囚われた者達がいた。
啜り泣き、呻き声が聞こえ、猿轡を噛まされているか、口を塞がれている者が大半だった。
(俺は意識がなかったからか……)
若い娘や少年、ジノと似たような年恰好の者が多かった。
(こいつら全員助けるとなると、ちと面倒だな……)
暫く、息の詰まるような空間で、ジノはただ待つしかなかった。
そして、暗がりに光が差し込んだ。
複数人の男達が踏み込み、檻の鍵を開けていく。
(そろそろ時間なのか)
「……いいか? 大人しくしてろよ」
懐に潜むルミナに向かって囁く。
ジノの檻も鍵が開けられ、横たわる身体
を引き摺り出された。
すかさず口に猿轡を噛まされる。
「こいつ、まだ目覚めないのか」
「そろそろ目覚める筈だが……」
(タイミング見計らって起きるフリをするか)
歩ける者は手を縛られ、鎖で繋がれ連行される。
階段を上り、連れて行かれた先は、何処かの劇場だった。
袖に順番に並ばされ、一人ずつ舞台に運ばれる。
ついに競売が始まったのだ。
舞台の袖に居ても感じる、会場の異様な雰囲気と熱気。
次々と商品となる少年少女が運ばれていき、落札されていく。
そしてとうとうジノの番になった。
「次は、黒髪の少年です」
両手に手錠、鉄製の首輪と足枷を付けられ、舞台上に引っ張られた。
スポットライトに照らされ、会場の客の視線を一身に浴びる。
「!」
「この通り、細身ですが身体はしっかり丈夫で、顔も整っています!」
前髪をかきあげられ、顔を顕にされる。
会場が一瞬ざわめき、自分の生まれつきの顔立ちの良さが厄介だと思った。
「では1,000Gから、開始します」
(この気配は……)
ジノは会場をざっと見回す。
二階正面の、一番見晴らしの良い席──そこに一人の仮面で目元を隠した貴婦人が座っていた。
(この女……)
視力の良いジノは、これだけ離れていても女の瞳の色を視認出来る。
──それは真っ赤な瞳。魔族特有のもの。
女の値踏みする視線を、真正面から受け止めた。
バイヤーの声だけが会場に響く。
「5,000、10,000……」
イリアスによって封印が施されているジノの両眼は、今は魅了の効果は失われている筈。
会場のあちこちで何らかの仕草で合図が出される。
バイヤーが、吊り上がる価格を読む声だけが響く。
仮面の女は派手な扇子で口元を隠し、ずっとジノを見つめている。
「20,000……50,000出ました!」
「はい、100,000です。101,000G」
「200,000G!!」
「200,000G、他いませんか?」
「……100,000,000」
凛とした女の声が響いた。
仮面の女が優雅に微笑んだ。
「1億……!!」
会場が一層ざわつき、仮面の貴婦人に注目が集まる。
「クロムウェル侯爵夫人だ……」
「1億とか、桁が違うぞ……?」
「他は居ませんね? こちらの黒髪の少年は、そちらの高貴な貴婦人が1億Gで落札です」
会場に拍手が巻き起こり、ジノは更に注目を浴びた。
ジノは即座に舞台から降ろされ、シャワー室に連れて行かれた。
「夫人が身綺麗にせよ、と」
冷たい水のシャワーで身を清めさせられ、用意されていた清潔な衣装に着替えさせられた。
高級なシルク製のシャツにズボン。
黒いタイをさせられ、ルミナはその裏に潜り込んだ。
前髪はワックスで撫で付けられた。
双眸は焦茶だが、その美貌は隠し切れない。
鏡に映った姿は、何処からどう見ても、貴族の御曹司に見える。
鉄製の首輪だけが不似合いだった。
「……さて、まずは夫人とご対面と行くか」
読んでいただきありがとうございます。
この辺書いてた記憶が既にないです。




