『その気になればどうにでもなる奴』にとって、誘拐(拉致)はただの無料送迎バスに過ぎない
ガタガタと荷馬車に揺られながら、ルミナはただ不安な時を過ごす。
ジノはまだ目覚めない。
胸元から抜け出して、ジノの顔の上に登る。
口元、頬、目元に小さな手でペタペタ触れた。
(うわ、睫毛が長い……)
(ジノ様は分かっていて飲まれたようだけど……)
「……お前」
(!!)
「バスルームに隠れてろって言っただろ」
「キュ!」
「いや、何言ってんのか分かんねーよ……」
あれくらいの睡眠薬を飲んだところで、実はジノには大したことではない。
袋の口はしっかり縛られている。
「さて、何処へ連れてってくれるんだか、楽しみだな……」
ジノの口調からは、余裕が感じられる。
ルミナは何だか大船に乗ったような気になった。
「……うーん」
ジノは背伸びをしようとして、袋の底に足が突っかかった。
「くそ、狭いな……」
「見つからないようにお前も隠れとけ」
ルミナは再びジノの胸元に滑り込んだ。
「おい、髭がくすぐったいって……」
やがて馬車が止まり、二人はそっと息を潜める。
袋越しに日の光が透け、幌が開けられたのが分かった。
「よし、降ろすぞ」
担がれて運び出され、何処か建物の中に連れて行かれる。
鉄の錆びた匂いがし、冷たい床に身体を置かれた。
袋の口が開けられ、一気に袋から出された。
ジノは固く目を閉じたまま、眠っているフリを続けた。
「王国側から来た若者です」
「金目の物を持っていたので、ついでに拉致しましたが、これが中々の上物なのです」
(聖剣はどっかに売られるなぁ……まぁ、どうせ戻ってくるし)
誰かに前髪を捲られ、容貌を確認された。
「よし、午後からの競りにかけよう」
(競り、という単語でここがどんな場所なのか簡単に察しが付いた)
ガシャンと金属音がして、男達の気配が消える。
目を開けると、まるで猛獣でも入れるような、檻に入れられていた。
「競りって、どんなんだろうな」
時間まで、ジノはのんびり待つことにした。
バスルームに取り残された双子は、昼近くに漸く変身が解けた。
「……くっそ、あのクソ勇者め! 何考えてやがる?」
「姉さん、今は早く姫様達を救出することを考えないと」
二人は荷袋の中から着替えを取り出し、素早く着る。
流石に剣は持って来られなかった。
「あいつ、分かっててわざと食ったろ?」
「どうしてあんな奴が勇者なんだ? 姫様も姫様だ。あんな奴についていって…」
「姫様は勇者様の信奉者だからなぁ」
ルゥはバスルームから出て、窓を開け舌を鳴らすとレグルスが飛んできて、指先に止まる。
「姫様を探せ」
レグルスを再度飛ばし、ルディとルゥは普通に部屋を出て階下に降りる。
「!」
カウンターにいた老人にルディが詰め寄った。
老人の胸ぐらを掴んで、凄む。
「今朝、2階の部屋から運んだ男は何処だ?」
「言わないと舌を引き抜くぞ?」
明日も更新予定でーす!




