『格安宿』という言葉の裏には、大抵『命の保証なし』という注釈がついている
こんにちは
ここ読む人おるんかな?
毎回思うw
宿の一室で、ジノ達は帝国侵入の準備に余念がない。
ルゥが偽造手形を調達し、行商の品は薬草になった。
薬草はイリアスが用意したので、通常の物より効果はずっと上だ。
籠の中に薬草を詰め、変化薬で小さなハムスターに変化した三人をそっと入れる。
「じゃ、ちょっとここで大人しくしててな」
しかし白い一匹が、指を伝って登り、あっという間にジノの胸元に滑り込んだ。
「あっ」
シャツの中を覗くと、必死にしがみついて、そこから動く様子がない。
「姫さん……?」
残りの二匹がキーキー騒いでいるが、気にせずジノは蓋をした。
「よし、行くか」
籠を背負って立ち上がる。
「待て」
イリアスが制止し、軽く杖を動かす。
「瞳の色を変えてやった」
「えっ?」
「其方は意図的に目立たぬように振る舞っているが、魔力のコントロールがまだまだだ」
「その前髪だと、障りあるだろう」
(俺の目のことまで知ってんのか?)
「別に髪を上げても構わぬぞ」
鏡の前に立ち、そっと前髪をかきあげる。
目の前に立つ自分の双眸は、焦茶色に変わっていた。
「効果はいつまでだ?」
「其方が魔力を解放しない限り」
「は?」
「魔法使えねーだろ、それ」
「其方には立派な剣があるではないか?」
「……」
懐にいたハムスターが、じっとこちらを見上げていた。その瞳は心配そうに、うるうると潤んでいる。
「姫さん……別に大丈夫だ」
ジノは前髪を再び下ろして、顔を隠した。
そんなジノにイリアスが念を押す。
「……忘れるな。変化薬の効果はきっかり一日だからな」
イリアスに見送られ、ジノは行商人を装い、どうにか検問を突破して、国境を抜けた。
やはり帝国側の人間しか、通さないようだ。
帝国側の町は、明らかに空気が違う。
警備隊が一段と警戒しているのが分かる。
何か視線を常に感じるような……。
「おい、ちょっと待て」
(チッ、面倒な)
警備隊の一人に呼び止められ、ジノは仕方なく足を止める。
「その腰に下げてる布は何だ?」
ジノは布を巻いたままの聖剣を腰に下げていた。
「あぁ、護身用の玩具ですよ」
隊員はジノの腰から聖剣を奪い、布を剥ぐ。
凝った意匠の聖剣が現れ、見るからに値打ち物だと分かる。
剣の柄を握り、一気に引き抜こうとする。
──勿論、抜けなかった。
「……ふん、本当に玩具のようだな」
聖剣を返され、ジノは再び布で包んで腰に下げた。
「行け」
隊員に背を向けて、足早にその場を後にする。
胸元から姫が顔を出し、心配そうに見つめてきた。
「キュ?」
「大丈夫」
国境の町から、ヴァルスタイン帝国の首都アイゼンガルツまでは馬車と列車を乗り継いでも二週間ほど。
とりあえずジノは乗合馬車に乗り、鉄道の駅のある最寄りの町まで移動することが課せられている。
乗合馬車の乗り場を探していると、でっぷりと太った愛想の良い男に話しかけられた。
「兄さん、馬車に乗りたいのか?」
ジノが頷くと、
「何処まで行きたいんだ?」
変化薬の効果が切れるのが一日。
なので、そのことを考慮した行き先になる。
それを告げると、男が言った。
「ついでだから、乗ってきな?」
男は荷馬車を指差した。荷台には豚が載っている。
男は御者席に座り、ジノに隣に座るように指示した。
「あ、荷物は荷台に載せな?」
言われた通り、荷台に荷物を載せると、独特の匂いがした。
(……くせぇ。双子はそのままそこにいろや)
ジノが前に乗り込むと、男は馬車を出発させた。
「王国から来たのかい?」
「そうだ」
「若いのに行商は大変じゃないか?」
「……別に」
男は道中、根掘り葉掘り訊いてきた。
同時に男の境遇も聞かされた。
景色は進むにつれ、荒地が目立つようになって来た。
帝国の国土は、大部分が豊沃とはかけ離れ、農作物が育ちにくいと言われている。
日が暮れる頃に、どうにか目的の町に辿り着いた。
「宿のアテはあるのか? 良かったら良い宿を紹介するぞ?」
男の親切に甘え、宿屋の前まで送って貰う。
男は一旦宿に入り、ジノのことを伝えて来たようで、
「格安で泊まれるぞ」
「何から何まで……ありがとう」
「良いってことよ」
男は右手の親指を立て、満面の笑顔で去って行った。
その背中が小さくなるまで見送ってから、ジノは宿屋に入った。
「いらっしゃい」
カウンターにいた初老の男は、眼鏡の縁を持ち上げ、じっとジノを値踏みするように見た。
「……聞いてるよ。一泊50Gだ」
(……安過ぎだろ。この程度の宿なら最低でも300Gはする)
財布から50G払うと、老人は奥の階段を指差した。
「二階の一番奥の部屋を使いな?」
読んでいただきありがとうございます。
今日は帰ってきて寝落ちしました。
テレビは付けっぱなしです。




