六.「お茶漬け」
——いよいよ、本番だ。
すずめは深呼吸を一つして、長い食卓の前に立った。
四神堂の空気は張りつめ、静かすぎるほどだった。
薄いベールのような覆面を付けた三人の皇太子が、長い食卓の向こう側に並んで座っている。
皇太子達がどのような表情をしているかは分からないが、唯一「目」だけは隠されていない。
(目で感情を読み取るしかない…ってことか)
一番左に座っている皇太子は、うぐいす色の美しい瞳をしていた。すずめと目が合うと、その瞳が柔らかく細められる。
ぞぞぞ
(わ、笑ってる!?なんだろう、この感じ……どこかで……)
身の毛がよだつような、甘くも冷たい視線。
中央に座る皇太子は、瑠璃色の冷たい瞳をしていた。
すずめをじっと見つめ、わずかに眉を寄せる。
まるで「異国から来た田舎者に、己の舌を満足させられるのか」とでも言いたげな視線だ。
一番右の皇太子は、真紅色の鋭い瞳をしていた。
腕を組んだまま、強い圧でこちらを睨みつけている。
(すっごい睨まれてるよーな…)
あまり好印象ではなさそうだ。
(でも、せっかくの異国の料理。楽しく美味しく食べてもらいたい。)
すずめは意識を集中させた。
炊きたてほかほかの白米を茶碗に盛り、その上に薬味と搾菜を丁寧に乗せる。
「この薬味と漬物が乗った白米の上に、私の国では緑茶を注いで、さらさらっといただきますが…───今回は更に美味しさを引き立てる物をご用意致しました。」
茶碗に琥珀色の湯が注がれる。
「───それは?」
中央に座っていた皇太子が、何処か中性的な低い声で問う。
「崩御された皇帝がお飲みになられていたお茶です。毒味は済んでおりますゆえ、ご安心ください。」
すずめは皇太子達の手前に湯気が立つ熱々のお茶漬けを並べた。そのまま頭を垂れて、一歩後ろに下がる。
カチャリ…───と、皇太子達がレンゲを使ってお茶漬けを掬う。レンゲの中で白米と具材が混ざり合い、琥珀色に染まった。
丁寧に一口───ぱくりと食す。
「…美味だ」
一番左の皇太子がそっと囁いた。
その言葉が引き金になったのか、さらさら……さらさらっと、三人とも一気に掻き込み始めた。
覆面の下で表情は見えないが、咀嚼の音が止まらない。
真心茗荷の力は、人の心を動かして、相手に気持ちを伝えることもできる。
(……よかった)
すずめは小さく息を吐いた。
「楽」を込めて作った甲斐があった。身分など関係なく、ただ素朴な味わいを楽しんでほしい——その想いが届いた気がした。
注がれた熱いお茶の中で、薬味と搾菜の出汁と風味が更に旨味を引き出す。
さらさらと響く咀嚼音は、まるで波の音のように聞こえる。
不快感を与えない辺り、流石は高貴な人間だとすずめは感心する。
(はあぁぁ~…食べる音を聞くだけで幸せぇ~。後で残り物貰おっと…)
緩む頬を抑えながら、夜食の事を考えていると───
「ふふふ…!───あはははははははは!!!。」
今まで静観していた林彩が突然狂ったように高笑いした。
その笑い声は、静まり返った四神堂に不気味に響き渡った。




