七.「乾煎り」
「あはははははははは…っ!!!」
「ちょ、ちょっと林彩!、皇太子様の前で無礼よ!!」
翠夏が林彩に近付いた瞬間、懐から取り出した小刀がギラリと光り、翠夏を威嚇するように振り回した後、そのまますずめを乱暴に引き寄せる。
「近寄るな!!!」
冷たい刃が、すずめの喉元にぴたりと押し当てられた。
すずめは息を止めた。
背中に冷たい汗が一気に噴き出す。
「ふふ……この娘がどうなってもいいのか?」
林彩の声は笑っているのに、目は完全に狂っていた。
「皇帝と同じように……皇太子も死ぬ……この国は、滅びる運命なのよ……!!あははははは!!!」
その瞬間───
バシャッ!!!!
すずめが湯呑みの中に入っていた茶色い液体を林彩の顔面に全力で叩きつけた。
ゴロン──と、湯呑みが床に転がる。
「ッ…!!!ヒィッ!?──こ、この臭いは───」
林彩が顔を歪めて後ずさる。
すずめは荒い息を吐きながら、林彩の手から小刀を素早く奪い取り、刃の部分を握り締めた。
「数ヶ月前に崩御された皇帝の本当の死因は───暗殺ですね?。…そして、お湯で煮出した「煙草」を…貴女が飲ませたのではないですか?」
四神堂が騒然とする。
「異国の田舎者なら煙草の存在を知らないと思った……
そう考えたのが、貴女の運の尽きです。」
「な…何故だ!!?───あの料理にかけたお茶はなんだと言うのよ!!!!」
「皇太子様達のお茶漬けにかけたお茶は、緑茶を乾煎りした物です。…───あの煙草からは「殺意」の香りがしました。然し、その香りはあたしにしか分かりません。残念でしたね」
すずめは林彩の胸倉を掴み、冷たく言い放つ。
「この小刀…本来だったら果物を切るための物ですよね?違う用途に使おうとするなら、あたしは貴女を──この場で殺します。」
血塗れの拳で殴打しようとした瞬間だった───
「林彩を引っ捕えよ───」
うぐいす色の瞳をした皇太子が、凛とした声音でその場にいた宦官達に命令をした。
(しまった!!…や、やりすぎた…?)
「小鳥!!!」
突然、翠夏がすずめに飛びついてきた。
驚いたすずめは翠夏に血がつかないように、もう片方の手で抱き締め返した。
「馬鹿!!!───…あんな危ない事して!!!……死んじゃったらどうするの!?」
翠夏の声は震えていた。
「ご、ごめんなさい……」
ジンジンと、刃で切れた部分が痛い。
「いだだだだだ!!!?手が痛いです!!翠夏様!!!」
「当たり前よ!!!直ぐに藍幻様に手当てしてもらわなきゃ!!!」
翠夏に支えられながらゆっくりと歩き出す。ふと皇太子たちの席に視線を移した。
(あれ…───いない…)
お茶漬けの感想聞きたかったな……と、呑気な事を考えながら、藍幻の元に向かうのであった。




