四.「茶葉」
歓迎会という名の試食会は、本来であれば皇帝に試食をしてもらい、後宮の料理人として相応しいか決めてもらう。然し、皇帝は一応崩御されているので、代わりに次期皇帝候補の皇太子達が今回の試食会に参列する事となった。
(でも、どうして身代わりが自殺なんてしたんだろ…)
そもそも国の主の代理なんて、相当な覚悟が無いと務められる物ではない。自分ではなく、その人物として生きねばならないのだから。
「精神的に追い詰められたのかな…───って、調理場で何を考えてんのよあたし!!。今から作るって時に…」
頭を横に思い切り振り、医官の藍幻から貰った搾菜を細かく切り刻んでいく。
(藍幻さんから搾菜貰えてラッキー!。ほぁ~、このコリコリとした食感がたまらない~~)
摘み食いをしていると背後から甘ったるい視線を感じた。
「小鳥~」
「げっ、蓮幻さん!」
明らさまに嫌そうな顔をするすずめに、蓮幻は頬を紅潮させた。
「なんで頬を赤らめるんですか!?」
「その視線が、僕の心に疼くからだよっ。こう…きゅうぅ~っとね」
「ヒィィィ!!むりむりむり!!。あたしに近寄ったら鼻の穴にわさび詰めますからねっ!?」
「えぇ~!!なんでぇ~!?」
「…あの、官長──試食会まであまり時間がありませんが」
派手な化粧の仏頂面の女官が冷たく一言放つ。
「ごめんごめん!。小鳥、僕は今日試食会に参列できなくなったから、代理で林彩に補佐を頼んだからね。」
「林彩です。」
「す、すずめです…!よろしくお願いします」
「では、頼んだよ」
蓮幻がその場を後にした瞬間、林彩は懐から小さな包みを取り出して広げた。
焦げ色をした茶葉のような物が少量────
「それは、茶葉ですか?」
すずめが問うと、林彩は少しだけ不気味に微笑んで頷く。
「崩御された皇帝も、よく召し上がっていたお茶ですわ。……少し香りが強いですが、皇太子様方に出してはどうかしら?」
(自殺した身代わりの皇帝が飲んだお茶…)
すずめは警戒しながらも、茶葉を手に取り慎重に匂いを嗅いだ。
瞬間、鼻腔を強く刺激する煙草のような臭いが広がり——
(……殺意……虚無……死にたい……)
真心茗荷の能力、茶葉の匂いからその持ち主の感情が読み取れた。
(こんな力もあったんだ……)
茶葉に染みついた強い感情の残滓を。
すずめは息を止めた。
(これは……ただの茶じゃない……!身代わりはこのお茶を飲まされて……自殺に見せかけられた……?)
「……貴女、見かけによらず大胆なのね。香りが強いと申したでしょ?」
林彩が目を細めてこちらを見ている。
「え、へへ……つい、気になってしまって」
すずめは慌てて笑顔を作ったが、心臓の音がうるさかった。
(誤魔化せた……かな?でも、これは絶対に皇太子様方に出してはいけない……。)
「貴女のいた国は、どんなお茶があるのかしら?」
「え、えーと…緑茶や…ほうじ茶など───」
ほうじ茶────色もこの茶葉・煙草の葉と見た目が似ている。
林彩が、何らかの理由で皇帝を殺め…皇太子達を暗殺しようとしているのならば…───
(一か八か…!───ほうじ茶を使って賭けてみよう)




