三.「漢方の香りがした」
「貴女が派遣されてきた子ね!?。遠いところから本当にありがとう~!!。私は翠夏よ!。」
明るい笑顔で出迎えたのは、後宮の料理副官長の翠夏という女官。副官試験に最近合格したばかりの優秀な人材らしい。
(夏が似合いそうな人だなぁ)
「初めまして、すずめと申します!」
「官長が小鳥って呼んでたわよね?。私もそう呼んでいいかしら?」
「蓮幻さんから呼ばれると鳥肌立ちますが…、翠夏様だったら、全然大丈夫です!」
「ぷっ…!!あははははっ!!、小鳥面白すぎ!」
「そ、そうですかねぇ~」
翠夏の笑い声が後宮の廊下に響いた。
後宮は想像以上に広大で華やかだった。
瓏国────
和の国より栄えていて、衣食住もしっかりしている。
そして、後宮は男子禁制とのことらしい。
「あれ…?。男子禁制って……──じゃあ、蓮幻さんは…」
「ふふっ、気づいた? あの人、特別許可をもらってるのよ。……でも本当は、宦官だからね」
翠夏は意味深に微笑んだ。
つまりは高貴な松茸は、とうの昔に収穫されてしまったという意味である。
「なんだか安心したような…」
「でもね、特別な許可を貰って後宮に出入りしている殿方は他にも居るのよぉ~。」
翠夏はかなりのお喋りのようだ。
噂話がすきなのだろう。
すずめが相槌を打つと、目を輝かせながら翠夏は話を続ける。
「医官と宦官は勿論だけど、確か最近…武官を一人だけ、見張りと護衛の為に出入りを許可されたばかりなのよね。」
「見張りって……───こ、後宮って、意外と物騒なんですか!?。たまに食べ物に毒を盛られたりとかは聞いた事はあるんですけど…」
「…──数ヶ月前に、皇帝が自害されたのよ。…でも、その自害された皇帝は身代わりだったの」
「身代わり…?───じゃあ、本物の皇帝様は?」
「見つかったとしても、一度皇帝という立場から逃げ出した人間に、国を預けることは許されない事なのよね…。その命を捧げて、償って貰うしかない」
翠夏は一瞬悲しげに目を伏せたが、すぐに明るい表情に戻った。
「それで、次期皇帝は三人の皇太子の中から選ばれることになったの。そうなると、上級妃も総入れ替えらしいわよ~。先帝の好みじゃ、次の皇帝は満足しないって話で」
(皇太子が三人……しかも上級妃まで総入れ替え?)
すずめは後宮の華やかな空気の中に、微かな重圧を感じ始めていた。
翠夏は明るく笑いながらも、声を少し落とした。
「それでね、小鳥。今日はちょうど良いタイミングなのよ」
「良いタイミング……?」
「うん。小鳥の歓迎会を兼ねて、皇太子様方が後宮の料理を試食しに来られることになってるの」
すずめは目を丸くした。
「え……皇太子様が? 三人全員ですか!?」
「大丈夫よ!、官長と私がついてるしっ!。他の女官の子達も居るから安心して作ってちょうだい!」
「皇太子様の好物とかって……」
「んー…基本は何でも食べるみたいだけど…───きっと御三方は、小鳥の真心を食べたいと思うのよね」
着飾らず、偽りない物を好む。
それを作れるかどうか、皇太子達は試そうとしている。すずめはプレッシャーで押し潰されそうになりながらも考えた。
凝った料理は逆に良い印象を与えないかもしれない
(!───そういえば確か…和の国から「緑茶」を持ってきたから…)
緑茶と聞いて浮かぶ物────
和食を好む人間なら一つしかない。
「お茶漬けだ!」
「?…お茶…漬け?」
「翠夏様!、漬物はありますか!?」
すずめが興奮気味に翠夏の肩を掴むと、背後から漢方の香りが漂ってきた。
クス…と、小さな笑い声が鈴の音のように響き、咄嗟に後ろを振り返る。すると───美しい青い髪を二つに結った青年がいつの間にか立っていた。
「今の時期なら、搾菜がおすすめですよ。」
明らかにすずめよりかは歳が上だが、丁寧な口調で物腰が柔らかい。
(薬……これは、漢方の香り?)
「あ!、藍幻様!」
翠夏に藍幻と呼ばれた青年は優しく微笑む。
「医官の藍幻と申します。」




