十四.「麻婆豆腐・其の弐」
すずめは内心焦っていた────
とんでもない食材を食べてしまったかもと……。
「先帝は争いが嫌いで、そもそも民の事なんて考えてねぇ奴だった。…自分が幸せになれればそれで良い人間。」
皇太子達はそんな帝に呆れていたという。
「まさか…、真心茗荷を食べさせて、自分と同じ思考にしようとしてたってことですか!?」
絆現は頷き、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「あのジジイが天辺なんて…───そもそも無理な話だったんだ。」
「バ、絆現さん!!───言っときますけどあたしは洗脳なんて考えてませんからね!?」
すずめの慌てた様子に、絆現は鬱陶しい…と小声で呟いた。
「んな事ァ分かってんだよ。…──問題は黄榴の事だ」
「…もしかして、例の身代わりの暗殺事件のことですか?」
「あれは別件だ───黄榴は、西の国・黄昏という国から入内した……ちと厄介な妃だ。」
黄榴の生まれ故郷・黄昏と瓏国は深い親交があった。
貧しい黄昏の国の衣食住を支援する代わりに、守護神である「麒麟」の加護を、瓏国は国の平和の為に与えてもらう約束をしていた。それは、麒麟の血が流れた姫を瓏国の妃として入内させる事だった。
「黄榴が、帝とその一族を殺そうとしているのは間違いない。身代わりが殺されたのは確かに別件だったが、試食会で皇太子を殺そうとした食婦は、黄榴の為に自滅したんだ。後で妃が疑われないようにな」
「黄榴様は……どうして先帝を憎んで、殺そうとしているのですか?。無理やり入内させられたとしても…殺そうとするなんて!」
「…───黄榴の母親を殺した───正確に言えば「心」を…だけどな」
すずめは息を呑んだ。
(心を…?)
「おい───そこで何をしているの?」
後ろを振り返ると、琵琶が立っていた。
「ビ、琵琶様!?」
「…そろそろ夕餉の時間だけど───まさか、まだ出来てないなんて言うんじゃないよね?」
「い、いえ!、黄榴様の夕餉はできてます!。今から持っていこうと思ってて…」
琵琶は不機嫌そうに「さっさと持っていけ」と急かす。
すずめは内心「なんだコイツ偉そうに…」と、思いながら盆に乗った麻婆豆腐を持って小走りで麒麟宮へと急ぐのだった。
「絆現───君は自分の立場を理解していないようだけど…」
琵琶は射抜くように絆現を睨み付けた。
「へいへい。武官は大人しくすれば良いんだろ?」
「…あの娘は、今夜の晩餐に死ぬ───」
「!……どういう意味だ」
「君があの娘を助けたいと思う気持ちがあるなら…───既に「心」を動かされた証拠だね。」
琵琶は不気味な笑みを浮かべた。
黄金色の瞳は、夕闇に染まる。




