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晩餐のおとぎ娘  作者: つぶ貝
少女と皇太子
12/15

十二.「洗脳疑惑」

「……軽い栄養失調ですね。」

好物を言い当てられた黄榴妃は興奮のあまり、その場に崩れ落ちた。

藍幻(ランゲン)は顔色一つ変えず、横たわる妃の口に無理やり薬を流し込んだ。

見かけによらず荒々しいその手際に、すずめは思わず息を飲んだ。黄榴(ファンリィ)妃は弱々しい声で吐き捨てた。

「余計な事を……するな。小娘ごときに何ができる?」

「このままでは、黄榴(ファンリィ)様は死んでしまいます!」

「……それを望んでいたとしたら? お前はそれでも無理矢理にでも食べさせる気か?」

すずめは一瞬言葉に詰まったが、すぐに息を吸った。

「…あたしは…──黄榴(ファンリィ)様の辛さなんて分かりません……。でも、だったら死ぬ前に、自分の好きな物を食べて死ぬ方が良くないですか!?」


身を乗り出してきたすずめを見て、黄榴(ファンリィ)妃は微かに笑った。


「……可笑しな娘じゃ」

その笑みに、すずめは少し見とれる。

(…同じ女の人なのに───なんだかドキドキする…)


すると蓮幻(レンゲン)が静かに言った。

「…黄榴(ファンリィ)妃、彼女はとても優秀な人間ですよ。皇太子の命を救った者ですから。貴女の事も、必ずお救いになられるでしょう」

黄榴(ファンリィ)妃は目を細め、冷ややかに言った。

「あの死に損なった(わっぱ)共か……愚かな人間よ…。先帝の後釜として憎まれる立場に自らなろうとは……」


(憎まれる立場…?)


「…先帝は嫌われてたんですか?」

「嗚呼……。人間を()()しようとした、愚かな帝じゃ」

「洗脳……!?」

黄榴(ファンリィ)妃は、黄金色の瞳に暗い光を宿してすずめを見つめた。

「…これ以上、小娘に話すことはない。さっさと出ていけ。お前には、(わらわ)の心は動かせんよ。……好物を言い当てた事だけは、誉めてやる」


。。。


「な、なんだか疲れた…」


洗脳────それが少しだけ、すずめの心に引っかかっていた。

もし、暗殺事件が───その「洗脳」と関わっていたとしたら「復讐」の為に…?


(でも、黄榴(ファンリィ)妃は、あんな誰かを利用した殺し方はしないような気がする。どちらかと言えば、自分で敵を討つタイプだ)


麒麟宫を後にし、黄榴(ファンリィ)妃の麻婆豆腐を作る為に調理場へと向かう道中────


「そう言えば…絆現(バンケン)さんは結局何しに来たんですか?」


今までほぼ空気だった「大型犬」は、やっと俺の番だ!と、言わんばかりの表情になったかと思えば

急に気まずそうにする。


「だ、だからそれは!!…────お前の料理を…」

「───なんて…、一緒に謝ろうとしてくれてたんですよね?。…あたしが、大声で笑っちゃったのが原因で…───本当にごめんなさい。」

「ふ、ふん!…謝って済むなら…───」

絆現(バンケン)────」


蓮幻(レンゲン)は釘を刺すかのように──少し低い声で絆現(バンケン)の名を呼んだ。


(蓮幻(レンゲン)さんって、こんな低い声が出るんだ…)


罰が悪そうにする絆現(バンケン)は、小さな声で「腹が減った」と呟いた。

その様子を見たすずめは、掌をポンっと叩く。

「じゃあ、麻婆豆腐の味見係をやってくれませんか?」

「あ、味見だぁ!?」

尻尾を振る大型犬かのように絆現(バンケン)は目を輝かせた。

(やっぱり犬だ)

「ふふっ…───そんな事で、この莫迦(ばか)を許すのですか?」

藍幻(ランゲン)がくすくすと上品に笑った。


「許すって…、別に何もされてないし…───」

「…貴女は謙虚で美しいですね。」

「おっと、ランラン?───それは小鳥(シャオニィ)を口説いているのかい?」


蓮幻(レンゲン)が子供のように頬を膨らます。


(またこの人は何を言ってんだか…)


「美しいと思ったから、美しいと申し上げただけです。」


予想もしなかった言葉に、すずめは少しだけ心臓が跳ねた。


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