十.「四神妃」
「四神妃から苦情をいただいたのだけど……どういうつもり?」
冷たい黄金色の瞳が、すずめを射抜いた。
黄昏のような…──美しいのに底知れない暗さを持つ目だった。
「蓮幻殿がここまで君を買う理由が、ボクには理解できないよ。……武官の癖に立場を弁えない犬もね」
(なんでこうなったんだろ…)
突然の呼び出しに呆然とするすずめを尻目に、童顔の中性的な宦官── この後宮を仕切る琵琶は静かに続けた。
「キミが早朝に哄笑したせいで、黄榴妃の機嫌を損ねたらしい。入内したばかりで神経を尖らせているところに、朝から大声で笑い声が響いたら……誰だって不快になるだろう?」
「も、申し訳ございません!」
「誰が犬だッ!!。俺は絆現だ!!」
(やっぱり番犬だった)
すずめは笑いを堪えた。
「黄榴妃は精神的に参っている。それなりの処罰を受けてもらうことになるけど…」
「しょ、処罰って…!!ちょっと待ってくださいよ!。元はと言えば、絆現さんが最初に突っかかってきたんですけど!?」
「じゃあ俺が悪いって言いたいのか!?」
「ソウデスネ」
琵琶は書案をバンッと叩き、冷ややかに言った。
「ごちゃごちゃ喧しいよ───死にたいの?」
(ひぃ!!こ、怖い…)
「通常だったら、このまま処罰を受けてもらう筈だったけど…──キミ達は一応、蓮幻殿が買っている人物だからね。納得はいかないけど、今回は別の形で責任を取ってもらう。…食婦のキミに黄榴妃の食事を作って欲しい。」
「え、黄榴妃の…ですか?」
「フン、つーかその妃…作った料理もまともに食べねぇ我儘だって噂じゃねぇか。」
絆現がそう言うと、琵琶は眉間に皺を寄せた。
「黄榴妃が何故料理を口にしないのかは…ボクにも分からない。」
「黄榴妃の好物ってなんでしょうか?」
「豆腐と挽肉と卵を使った物を好むらしいよ。」
(豆腐と挽肉と卵か…)
「琵琶様、黄榴妃と面会をさせていただきたいのですが」
「……手配するよ────でも、一つだけ言っておく」
琵琶は少し低い声で言った。
「ボクは、今回の件で黄榴妃が素直に食すとは思えない───これは確実に言える事だよ。」
「なら、食べたくなるようにするだけです」
「…───失敗は許されない。最悪、その「命」をいただく…。それだけは覚えておくんだね。」
黄金色の美しく冷ややかな瞳は、すずめを殺そうとしていた。




