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19話 ペット捕獲作戦!


 チュンチュン……。


 小鳥のさえずりが響く、のどかで平和な小高い山。

 三人は今、激しい戦闘とは無縁ののんびりとした獣道を歩いていた。


 「何でアタシがこんな……アタシだって金欠なんだぞ……」

 

 ミランダが、死んだ魚のような目で虚空を見つめながらそんな事をぼやいていた。

 

 ◇

 

 時計の針を少し戻し、翌朝。

 宿屋のベッドで無防備に腹を出し、ボリボリと掻きながら見事な鼻提灯を膨らませて爆睡するヒミコ。

 それをミランダが容赦なく引っぱたいて叩き起こし、未だうつらうつらと舟を漕いでいる彼女の首根っこを掴んで引きずりながら、三人は冒険者ギルドへと到着した。


 「嘘だろ……? こいつ……。歩きながら寝てやがるぞ……」

 「あぁ大丈夫です、いつもなんですよ。ヒミコは朝、エンジンがかかるのが絶望的に遅いんです」

 

 鼻提灯を咲かせながらよだれを垂らす自称・次期女王を見て、ミランダがドン引きしながら呟き、リオが慣れた様子でため息をつく。

 そんな呆れた会話を交わしつつ、三人はギルドの奥にある巨大なクエストボードの前に立った。


 「よし、アタシがサクッと選んでやる。お前らの『経験』を手っ取り早く積ませて、なおかつ一気に金が稼げるやつをな」

 

 ミランダは自信満々に腕まくりをすると、ボードに貼られた無数の羊皮紙の中から、一際目立つ手配書をベリッと剥ぎ取った。


 「これだ! 一発でガッツリ稼げる『アイアンスケイル・ラプター』の討伐依頼! 相手はデカくて狂暴だが、その分、一気にデカい経験を積むにはもってこいだろ!」

 手にした依頼書をひらひらと揺らし、得意げな顔で受付カウンターへと持っていくミランダ。

 

 しかし――。


 「ダメに決まってるじゃないですか」

 

 いつもの完璧な営業スマイルを浮かべた受付嬢のリーナに、秒速で却下された。


 「…………はぁ!?」

 

 予想外の即答に、ミランダがカウンターに身を乗り出して抗議の声を上げる。


 「なんでだよ! アタシのランクなら、ラプターの二匹や三匹くらい余裕で受けられるだろ!」

 「ええ。ミランダさん『個人』なら、ですね」

 

 リーナはニコリと笑って、ミランダの背後――立ったまま鼻提灯を咲かせ、よだれを垂らしているヒミコと、それを必死で支えているリオを指差した。


 「今は『パーティ』としての依頼受注になります。ド素人を二人も連れて、上位のラプター討伐なんて許可できるわけないじゃないですか。一瞬でミンチにされますよ、あの二人」

 「あっ……」

 「今のミランダさんはリーダーなんですから。ご自分の実力ではなく、パーティ全員のレベルと安全を考慮した依頼を選んでくださいね」

 

 ニコニコと笑いながら放たれる正論の連打に、ミランダはぐうの音も出ず、手にしたラプター討伐の依頼書をポロリと床に落とした。

 その瞬間。

 

 ――パチンッ!

 

 リオに支えられて立ったまま寝ていたヒミコの鼻先で、見事に膨らんでいた鼻提灯が小気味よい音を立てて弾け飛んだ。


 「りーだー!? むっ、ワレもリーダーをやるぞ!!」

 

 たった今目覚めたばかりの自称・次期女王が、目をバキバキに見開いて勢いよく身を乗り出してくる。

 どうやら寝ぼけた頭で、リーナの口から出た『リーダー』という権力の匂いがする単語だけを敏感に聞き取ったらしい。


 「お前、たった今起きたばっかりだろうが! 話の文脈を一切無視して美味しいところだけ食いつくな!」

 「絶対嫌だね! お前みたいな自己中な奴をリーダーにしたら、三日でパーティが全滅するわ!」

 

 リオとミランダから、間髪入れずに全力の拒否のツッコミが飛ぶ。


 「なんじゃと!? 次期女王たるワレのカリスマ性と統率力をもってすれば、らぷたぁなどいちころじゃぞ!」

 「お前、ラプターがどんな魔物か絶対知らないだろ!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ始めた三人に対し、リーナは一切のペースを崩さず、カウンターの下から一枚の新しい羊皮紙をスッと差し出した。


 「はいはい、リーダー争いは仲良く後でやってくださいね。そんなド素人のお二人がいるパーティにぴったりの、安全なクエストはこちらです」

 

 ◇


 「なんで俺ばっかり……っ、よいしょ……っ」

 

 文句を言いながら、ガラガラと音を立てて一人で引けるサイズの木製の小さな荷車を引いているのは、もちろん一番下っ端のリオである。荷台には、捕獲用の小さな鉄檻がいくつか積まれていた。


 「『ニャンカルドッグ』の捕獲、て……」

 

 一方、手ぶらで歩くベテラン冒険者のミランダはというと、魂が抜けたような声で虚空を見つめていた。

 たった数十分前まで「ラプターを狩る!」と息巻いていた彼女の中で、積み上げてきた歴戦のプライドが『ポキッ』と虚しく折れる音が響く。


 「して、そのニャンカルドッグとは『にゃんにゃん』じゃ?」

 

 クスリともしない、どころか周囲の空気が少し冷えるようなくだらないダジャレを織り交ぜながら、同じく手ぶらのヒミコがミランダに問いかけた。


 「……猫と犬のミックス種だ。ただ、僅かに魔物の血が入っててな。いつの間にか繁殖して、この辺りに住み着いてるんだよ。魔物の中でも危険性が低く、見た目が愛嬌たっぷりだから、金持ちのペットとして需要があってな。今回の依頼は、そいつらを傷つけずに生け捕りにすることだ」

 

 ヒミコのしょうもないダジャレを完全にスルーし(もはやツッコむ気力も残っていないらしい)、ミランダは疲労感たっぷりの声で今回の依頼内容を説明した。


 「平和じゃのー。で、これでいくらもらえるんじゃ?」

 「お前、ギルドで話聞いて無かったのかよ。欲しい奴が結構いてな、最低5匹の捕獲が条件だ。一匹捕まえるごとに5万フォルスだってよ」

 「おぉー!」

 

 思いのほか高額な報酬額を聞いて、ヒミコが目を輝かせて歓声を上げた。


 「おい、ちなみにラプター討伐は、依頼の基本報酬だけでも一体倒すごとに10万だぞ」

 「あぁ? そんなの、命懸けで戦うより、このニャンカルなんとかを捕まえる方が安全で良いではないか」

 「それは俺もヒミコと同じ意見だな」

 「……これだから素人は」

 「なにおう!?」

 

 鼻で笑ったミランダを、ヒミコがムスッとして睨みつける。


 「落ち着け。ゴブリンもラプターも、危険な生物には変わりは無い。だがな、決定的な『違い』があるんだ」

 「「違い?」」

 

 二人は揃って首を傾げた。


 「ああ。ゴブリンは倒しても、クズ魔石くらいしか価値が無い。だがラプターは違う。アイツらの全身を覆う鉄のような鱗や鋭い鍵爪は、武具の素材として鍛冶屋が喉から手が出るほど欲しがるんだよ。もろもろの素材を引っ剥がして売れば、討伐報酬とは別に、一体あたり50万フォルスはくだらない」


 「「なっ……たけぇーーっ!?」」


 50万。

 その桁違いの金額を聞いた瞬間、安全第一だったはずの素人二人の目の色が、くっきりと強欲な『お金マーク』に変わった。


 「だが、今のお前らじゃラプターにはまず間違いなく勝てない。さっきリーナも言ってたろ。まずはこういう弱い魔物をこなして、順に経験を積んでいくんだよ」

 

 50万フォルスの幻影に目が眩んでよだれを垂らしそうな二人を、ミランダが呆れ声で現実へと引き戻す。

 

 「経験と言ったってそのニャンカルなんとかは危険が無いんじゃろ? なら楽勝ではないか」

 「あぁ? 他の魔物と比べればな。だが、一切抵抗されないわけじゃねえ。大人しく檻に入ってくれるはずもないし、普通に『戦闘』にはなるぞ?」

 「……え?」

 

 てっきり、その辺に罠でも置いて安全に捕まえるだけだと思っていたリオが、間の抜けた声を漏らす。

 その時だった。


 「――来たぞ。構えな」


 ミランダが油断のない鋭い声で告げた直後。

 のどかな小高い丘の茂みがガサリと大きく揺れ、突然、三人の目の前に『それ』が姿を現した。

 全体的なシルエットは、モフモフとした愛らしい子猫そのもの。しかし、犬のようにパタパタと動く垂れ耳と、少し丸っこいフォルムを併せ持っている。

 金持ちのペットとして大人気なのも頷けるほどの圧倒的に愛くるしい姿だが、そいつは野生の魔物らしく、小さな牙を必死に剥き出しにして、三人を見下ろしながら全力で威嚇の咆哮を放った。


 「――わんっにゃー!」

 「――にゃわぁーん!!」




 「「―――鳴き声だっさー!?」」



 



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