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18話 今後の方針


 『ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャッ!!』


  目にも留まらぬ速さで、テーブルの上に並べられた山盛りの料理が次々とブラックホールのように消費されていく。

 ここは、冒険者ギルド内に併設された酒場兼食堂。

 ギルドに併設された浴場を借りて、ようやくゴブリンの悪臭から解放された三人が一つのテーブルを囲んでいた。


 「……なんで、アタシがこいつらと……」

 

 ベテラン冒険者のミランダは、目の前の温かい食事には一切手を付けず、死んだ魚のような目で虚空を眺めていた。

 

 受付嬢リーナの巧妙な詐欺により、有無を言わさずこのド素人二人と『正式なパーティ』を組まされてしまった絶望から、未だに抜け出せていないのだ。


 「諦めるんじゃな。これもまた運命……いや、でひゅてゅにーひょ(デスティニーよ)」

 「喋ってから食えよ! 言葉の途中で肉を放り込むな!」

 

 両頬に限界まで肉やパンを詰め込んだヒミコが、偉そうにふんぞり返りながら言い放ち、すかさずリオが鋭いツッコミを入れる。

 口の中が満員御礼すぎて、ヒミコの渾身のキメ台詞は完全に謎の呪文と化していた。


 「もぐもぐ……何じゃリオ。お主も遠慮せずに食え。ミストの兄ちゃんから貰った路銀は、まだまだあるんじゃろ? ごきゅっ……ぷはぁーっ!」

 

 木製のジョッキに入った果実水を一気に飲み干し、ヒミコは満足げにテーブルをバンッと叩いた。


 「まぁミランダ。そうくよくよするな。あの腹黒受付嬢に一杯食わされたのは同情するが、もう過ぎた事じゃ。お主、ワレらが『転移者』だということは知っておるじゃろ?」

 「……ああ、だから?」

 「という事はじゃ。ワレらが元の世界に帰れば……?」

 

 パンッ。

 ヒミコが勿体ぶるように、目の前で一つ柏手を打つ。


 「この理不尽なパーティ契約も、自動的に消滅するという事じゃ!」

 「っ……!」

 

 その瞬間、ミランダの死んだ魚のような目に、カッ!と強い希望の光が灯った。

(……ああ、そうだ! こいつらが元の世界に帰還すれば、自ずとパーティ解消じゃねえか!)

 

 永遠に続くかと思われた地獄に、明確な出口が見えた。

 絶望のどん底で虚空を眺めていたベテラン冒険者の顔に、みるみるうちに生気が戻っていく。


 「分かったか? でな、あの受付の姉ちゃんが言うにはの」

 「ヒミコの職業スキルを極限まで上げるか、王都の機関を頼れば、帰還の魔法やアイテムが見つかるかもしれないらしいんだ」

 

 もったいぶるヒミコの言葉を引き継ぐように、横からリオが具体的な説明を補足した。


 「あー、過去の転移者の中にはそういう手で帰った奴もいるって、なんか聞いたことあるな。だけど、ヒミコのスキルを上げるってどういうことだ? というかお前ら、そもそも一体どうやってこの世界に来たんだ?」

 「はい。恐らくっていうか、十中八九コイツのせいなんですけど……」

 「ふぉい! わふぇふぉ、ふぉいふよふぁふぁふぃすふな!(おい! ワレをコイツ呼ばわりするな!)」

 

 限界まで肉を頬張ったまま猛抗議してくる自称・次期女王を完全にシカトして、リオは受付嬢リーナに話した時と同じように、事の経緯を説明した。

 元の世界でヒミコが『インチキ雨乞いの儀式』めいた祈りを捧げた直後、気がつけばこの世界の平原に立っていたこと。それを聞いたリーナが「ヒミコのスキルが超低確率の奇跡トラブルを引き当てたのではないか」と推測したこと。


 「……なるほどなあ。もうソレ、完全にヒミコのスキルのせいだろ。なんだよその傍迷惑な奇跡は。というか一体何なんだコイツのスキルは……」

 「ふぁふぁふぁふぁ! ふぉいふふふふなふふっふぇふぉふぁろ!(だから! コイツって言うなって言っておるじゃろ!)」

 

 あまりのスケールの無駄遣いと理不尽さに心底呆れ返って頭を抱えるミランダと、またしても「コイツ」呼ばわりされて、もごもごと口から食べカスを飛ばしながら抗議の声を上げるヒミコ。

 

 「ぺっ! 汚えな、飛ばすな!」

 

 飛んできたパン屑を鬱陶しそうに払い除けながら、ミランダは本日何度目か分からない特大のため息をついた。

 

 「はぁ…………。まぁ良い、大体の事情は分かった。というか、お前らも中々大変だったんだな。右も左も分からない場所に飛ばされて、来た初日に速攻で牢屋にぶち込まれるって……」

 「そうなんですよ! ミランダさん、分かってくれますか!? あの時の俺の絶望感を!」

 

 不意にかけられた労いの言葉に、リオは我が意を得たりと身を乗り出した。


 「本当に最悪でしたよ! こいつが衛兵に喧嘩を売るせいで、いきなり犯罪者扱いからのスタートですからね!? 尋問官のミストさんが良い人で本当に助かりましたけど……」

 「あー、ミストか」

 

 その名前に、ミランダがふと思い出したように頷いた。

 

 「ミランダさんも知ってるんですか?」

 「そりゃな。領主であるガルガント辺境伯の長男坊だろ? この街でアイツを知らない奴なんていねえよ」

 「へー、そうなんですね」

 

 リオは素直に感心して頷いた。

 ギルドの受付嬢リーナから『ミストは辺境伯の長男だ』と聞いてはいたが、街の冒険者たちにも広く顔が知られているほどの有名人だとは思っていなかったのだ。


 「む、そうじゃったな。ワレの家臣の家臣くらいにあたる、あの苦労人の料理人じゃな!」

 「だから料理人じゃないって」

 

 相変わらずミストの職業を勘違いしたままふんぞり返るヒミコに、リオがすかさずツッコミを入れる。

 そんな二人のブレないやり取りを見て、ミランダは「ははっ」と小さく笑った。


 「まっ、組まされちまったもんはもう仕方ねえ。そこは諦めた。とりあえず、お前らが元の世界に帰還するまでは、アタシが手伝ってやるとするよ」

 

 頭の後ろで腕を組みながら、ミランダは半ばヤケクソ気味に、それでも面倒見の良い先輩としての顔をのぞかせた。


 「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 

 リオがパッと顔を輝かせて深く頭を下げる。

 しかし、そのちょっといい雰囲気を、傍若無人な少女が即座にぶち壊した。


 「そうか! ところでミランダ、お主は何処に住んでおるのじゃ?」

 「んあ? アタシか? そんなの、この近くの安宿だよ」

 「よし、今夜からの寝床確保じゃな!」

 

 ビシッとミランダを指差して高らかに宣言するヒミコ。


 「…………はぁ?」

 「『ぱーてぃ』じゃろ? つまり寝食を共にする一蓮托生ということじゃ! 安心せい、ワレは安宿でも文句は言わんぞ!」

 「アタシの部屋に転がり込む気満々じゃねえか!!」

 「すっ、すみませんミランダさん! 俺とこいつの宿代は、ちゃんとミストさんのお金から出しますから!」

 

 せっかく芽生えかけた絆を、開始わずか十秒で図々しく食いつぶそうとする寄生虫と、全力でフォローに入るリオ。

 「前途多難すぎる……」と、ミランダは再び深いため息をつきながら、すっかり冷めてしまった料理を口に運ぶのだった。

 

 ◇

 

 テーブルの上の皿が見事に空になり、食後の果実水を飲み干したところで、ミランダがパンッと手を叩いて居住まいを正した。


 「よし、満腹になったところで今後の流れを説明するぞ。お前らが一刻も早く元の世界に帰るため……つまり、アタシがこの理不尽なパーティから一刻も早く解放されるための、最速最短ルートだ!」

 「ミランダさん、本音が全然隠しきれてないですよ」

 「隠すつもりもねえよ」

 

 ジト目でツッコミを入れるリオに対し、ミランダは堂々と胸を張って指を二本立てた。


 「今後は『王都へ向かうための資金稼ぎ』と、『ヒミコのスキルのレベル上げ』。この二つを同時進行でやっていく」

 「なるほど……」

 

 リオは真面目な顔でコクリと頷き、ふと疑問に思ったことを口にした。


 「お金稼ぎはギルドでクエストを受ければいいとして……スキルって、具体的にどうやって上げるんですか? やっぱり、筋トレとか素振りとかするんですか?」

 「素振りってなんだよ。スキルの成長に必要なのは、とにかく『経験』だ。実戦で魔物と戦って場数を踏むか、あるいは、ひたすら自分の魔法やスキルを使いまくって熟練度を上げるか、だ」

 「使いまくる……」

 「ああ。そうやって経験を積んで限界まで達すれば、ある日突然、ふっと感覚で分かるようになる。『あ、今自分のランクが上がったな』って、自分自身ではっきりと直感するんだ」 

 「ミランダさんもあるんですか?」

 「ああ。昔、魔物を倒した瞬間に、ふと『あっ、上がった』って実感したことがあってな」

 

 ミランダの分かりやすい解説を聞いて、横でつまようじを咥えていたヒミコがポンッと手を打った。


 「なるほど! ならば簡単じゃ! ワレが毎日朝から晩まであのルーレットを回して『金だらい』を落とし続ければ良いということじゃな!」


 「「街がぶっ壊れるわ!!」」

 





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