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17話 パーティー結成!



 「なるほど……それはまた……」

 

 詳しい話を聞く為に、再びギルドの奥にある別室へと案内されていた。

 ゴブリンの緑色の体液と泥でドロドロになり、強烈な生臭さを放つリオとヒミコ。二人は今すぐ全てを放り出してお風呂に飛び込みたい感満載だったが、逆らえるわけもなく、死んだ魚のような目でソファーに腰を下ろしていた。


 「不思議なスキルですね。ヒミコちゃんのその『運否天賦の巫女ラック・プリーステス』という職業も」

 凄惨な見た目と匂いの二人を前にしても一切顔色を変えず、受付嬢のリーナは顎に手を当てて興味深そうに考え込んでいる。


 「だよなー。ルーレットから金だらいが落ちてくるとか、前代未聞のふざけた魔法だよ。……じゃ、そういう事で」

 

 どさくさに紛れて、引率役のミランダがソファーからスッと立ち上がり、そそくさと部屋のドアへ向かおうとする。


 「ミランダさん。では、次なんですが」

 「は? いやいやいや」

 

 背後からかけられたリーナの涼やかな声に、ミランダはギゴッと不自然な動きで立ち止まった。そして、必死の形相で振り返り抵抗を試みる。


 「何言ってるんですか? みたいな顔しないでください」

 

 キョトンと小首を傾げるリーナ。その完璧な笑顔が、今のミランダには悪魔に見えた。


 「おっ、終わりだろ!? 魔物と戦わせて、解体の講習もやった! アタシの引率任務はこれで終わりだろ!?」

 「『ディース草の採取』を達成していないじゃないですか」

 

 ニッコリ。


 「うぐっ……」

 

 正論のナイフがミランダの胸に突き刺さる。完全に忘れていた痛いところを突かれ、ベテラン冒険者が分かりやすく言葉に詰まった。


 「それに」

 

 リーナはニコリと笑って、ソファーでぐったりしているリオを指差した。


 「リオさん? 弓術士としての魔法は、もう使えるようになりましたか?」

 「え? いや、全然使えてないですけど」

 「ほら。魔法講習も終わっていません」

 

 リーナの容赦ない追撃に、ミランダが顔を真っ赤にして反論した。


 「そ、それはこいつが『断られた』とか、意味分かんねえこと言うからだろ! アタシの教え方のせいじゃねえ!」

 「いやいや、『あとは己に問いかけろ』って丸投げしただけじゃないですか……」

 

 新品。新品というのは、とてもいいものだ。それを自分ではなく他人に、しかも得体の知れない小鬼の体液でおにゅーの短剣が汚されたのだ。リオとしてはちょっとどころではなくムカついていた。

 

 ちなみにヒミコはというと、この部屋に入ってから一言も発していない。

 正確には、虚無を見つめながら口パクで「みどりの血ってなんじゃねん……くっせー、ふろふろふろふろかっちゅどん……」と呟き続けている。完全に現実から目を背け、思考を放棄していた。


 「もう、あれですね、ミランダさん」

 

 ヒミコがぶっ壊れているのを横目に、リーナは急に話を切り替えた。


 「ミランダさんは今まで、パーティの誘いとか、色々受け続けて来たんでしょう?」

 「いきなりなんだよ……? アタシは一人が好きなんだ」

 

 急な話題の変化に警戒するミランダに対し、リーナはふさぎ込むようにスッと目を伏せ、若干の悲壮感を漂わせた。


 「わたしは、ミランダさんが心配なんです」

 「いやダイジョブだって。ここら辺にアタシより強い奴なんて、ほとんどいねえじゃん?」

 「それでも心配です。こんなに綺麗なミランダさんが、いつも一人だなんて……」

 「おっ、おお……。心配してくれてありがとう。でも、ほんと大丈夫だって」

 

 普段は自分をこき使ってくる受付嬢からの、不意打ちのような「綺麗」「心配」という甘い言葉。

 それに絆されたのか、ミランダの態度が少しだけ軟化した。


 「本当ですか?」

 「ああ」

 「そうですか。では、これにサインをもらえますか? 今回の講習依頼の、確認のサインです」

 

 リーナは安心したように微笑むと、手元のバインダーに挟まれた書類を差し出した。


 「ああ、わかったよ」


 サラサラと、ミランダが疑うことなくペンを走らせる。

 書類を受け取ったリーナは、パァッと花が咲くような満面の営業スマイルを浮かべた。


 「はい、確認しました! これでミランダさん、リオさん、ヒミコちゃんの三人が『正式なパーティ』を組むことになりましたね!」

 「…………は?」


 あまりの急展開に、ミランダの口から間の抜けた声が漏れた。

 ミランダが慌てて手元の書類をよく見ると、なんと紙が巧妙に二枚重ねになっていた。


 表面にある一枚目(講習の確認書)は半分ほどの長さに切られており、サイン欄だけがくり抜かれたように露出していたのだ。その一枚目をペラリと捲ると、下にあった本来の書類には、デカデカと『新規パーティ結成申請書』という文字が印字されていた。


 「おいリーナ!? 汚ねえぞ! こんなの無効だ!!」

 

 ガタッ! と勢いよく立ち上がり、ミランダが抗議の声を上げる。


 「えっ、何がですか?」

 「何がって、こんなの詐欺じゃねえか!」

 

 ミランダは怒り心頭で机の上の書類を指差す。が――そこには、先ほどまで重なっていたはずの『半分に切られた一枚目の紙』が跡形もなく消え去っていた。


 「あれっ!? 紙は!?」

 「何もありませんが?」

 

 リーナは小首を傾げ、完璧な作り笑いを浮かべている。その手首の袖口から、一瞬だけクシャッと丸められた紙切れが見えた気がしたが、気のせいだろうか。


 「お前っ、いまこっそり抜いて隠しただけだろ!」

 「ミランダさん……私は悲しいです。一生懸命お仕事をしている私を、詐欺師扱いするなんて……」

 「あ?」

 「しくしくしく」

 

 誰が見ても、三流の大根役者以下の演技だった。

 何しろ、涙一つ流していないどころか、口で直接「シクシクシク」と棒読みで発しているのだから。


 「口でシクシク言うな! 馬鹿にしてんのか!」

 「ひどいです……しくしくしく。この申請書、もうギルドマスターの決裁箱に入れちゃいますね……しくしく」

 「待て待て待て!」

 

 ベテラン冒険者と美人受付嬢の、あまりにも理不尽なやり取り。

 完全にリーナの手のひらの上で弄ばれているミランダを見て、リオは(この受付のお姉さん、絶対に敵に回しちゃ駄目な人だ……)と心の底から震え上がった。


 「――はい、というわけでギルド印、受理しました!」

 

 バーンッ!!!

 

 直後、リーナは一瞬で泣き真似(?)をやめ、目にも留まらぬ早業で申請書にギルドの公式スタンプを叩きつけた。


 「なっ!?」

 「おめでとうございます! これにて、ミランダさん、リオさん、ヒミコちゃんの三名による新規パーティが正式に発足いたしました! これからもファストール支部をよろしくお願いしますね!あっパーティー名はどうしますか?」

 「ふっ……ふざけんなあああああああっ!?」

 

 ミランダの悲痛な絶叫が、ギルドの別室に虚しく響き渡った。

 ……なお、ヒミコは依然として「ふろ……みどり……ふろ……」と虚空を見つめ続けているのだった。




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