第五話「蘭との再会」
数日後、蒼玄は紗月を伴い、王都郊外のとある隠れ家へと向かった。
馬車を降りた紗月の前に、小さな庵が静かに佇んでいた。蒼玄が戸を叩くと、中から足音が近づいてくる。
戸が開いた瞬間、紗月は息を呑んだ。
そこに立っていたのは、記憶よりもずっと大人びた、しかし紛れもなくあの頃の面影を残した娘だった。
「……姉様?」
掠れた声。十数年分の歳月が、二人の間に流れた。
「蘭……」
それ以上、言葉にならなかった。蘭が先に駆け寄り、紗月の胸に飛び込んだ。
「姉様、ごめんなさい……っ、ごめんなさい、私のせいで、姉様はずっと……」
「いいの。もう、いいのよ」
紗月は、震える妹の背を抱きしめた。十数年、止まっていた時間が、ようやく動き出す音がした。
「あの夜、私は脅されていました。本当のことを言えば、姉様も私も殺すと……。怖くて、何も言えなかった」
「謝らないで。あなたも、被害者だったのだから」
蘭は涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
「蒼玄様が、ずっと私を匿ってくださいました。いつか姉様に真実を伝えると約束して……。姉様、蒼玄様は」
蘭は、紗月の後ろに立つ蒼玄をちらりと見て、小さく微笑んだ。
「とても良い方です。姉様のことを話すたび、本当に優しい顔をなさるの」
紗月の頬が、わずかに赤らんだ。蒼玄が、咳払いを一つして視線を逸らす。
「蘭殿、それは話さなくてもよろしいのでは」
「あら、本当のことですもの」
蘭の悪戯っぽい笑みに、紗月は久しぶりに、心から笑った。
その夜、三人は庵で静かな時を過ごした。
蘭が語る、
匿われていた日々の話。
蒼玄が語る、いつか紗月に会う日のために積み重ねてきた覚悟。
紗月は、ようやく取り戻した家族の温もりに、何度も涙をこぼした。
帰り際、蘭は紗月の手をそっと握った。
「姉様。今度こそ、幸せになってください。今度は、私が祈る番だから」
紗月は頷き、妹を抱きしめ返した。
「あなたも。もう、隠れて生きなくていい」
馬車に乗り込む紗月に、蒼玄がそっと寄り添った。
「蘭殿のことは、これから王都で正式に保護する手筈を整えます。もう、誰にも怯える必要はない」
「ありがとうございます……本当に、何とお礼を言えばいいか」
蒼玄は、紗月の手を取り、優しく握った。
「礼なら、これから先、ずっと隣にいてくださることで」
紗月は、頬を染めながら、小さく頷いた。
雨上がりの空に、淡い月明かりが差し込んでいた。
―――― コマ割り・演出メモ ――――
【扉絵案】小さな庵の遠景、雨上がりの淡い光。
【感動の再会シーン・見開き推奨】十数年ぶりの抱擁。涙、雨上がりの光、二人の表情を大きく使う、本作のエモーショナルなクライマックスの一つ。
【小ゴマ連打】姉妹の涙、震える手、抱きしめる腕、感情の機微を細かいコマ割りでテンポよく見せる。
【コメディ要素の差し込み】紗月が照れ、蒼玄が咳払いするコミカルなコマ。シリアス展開の合間の緩急として効果的。
【ラストカット】月明かりの下、寄り添う二人のシルエット遠景。




