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第六話「雨上がりの誓い」(最終話)

それから半年が経った。


桐宮の家の汚名は晴れ、紗月の名は正式に回復された。分家の罪は王都の裁きにかけられ、蘭もまた、堂々と人前に姿を見せられるようになった。


雨宿り宮は、今もその場所にあった。

だが、もう「叶わぬ恋」だけが集う場所ではなくなっていた。紗月は、誰かの想いを文字にする仕事を、これからも続けると決めていた。今度は、自分の意志で。


「相変わらず、筆を置かない人だ」


文机に向かう紗月の背に、聞き慣れた声がかかった。振り向くと、戸口に蒼玄が立っていた。将軍の正装ではなく、簡素な羽織姿で。


「蒼玄様。今日は非番なのですか?」


「あなたに会うためなら、いくらでも都合をつける」


蒼玄は笑いながら歩み寄ると、紗月の隣に腰を下ろした。窓の外では、久しぶりの雨が静かに降り始めていた。


「この宮も、雨の日しか灯らないというのは、そろそろ変えてもいいのでは?」


「あら。雨の日だからこそ、人は本音をこぼせるのですよ」


「では、私も今日、本音をこぼしてもよろしいか」


紗月が顔を上げると、蒼玄はその手をそっと取り、懐から小さな包みを取り出した。


開かれた中には、紗月が以前失くしたあの髪飾りが――いや、それとよく似た、新しい意匠の品が収められていた。


「蘭殿に手伝ってもらい、新しく誂えました。あなたが、もう二度と何かを失うことのないように」


紗月の瞳が潤んだ。


「蒼玄様……」


「紗月様。十数年前、雨の中で泣いていた幼い娘を助けた時から、私はずっとあなたに繋がる糸を辿ってきました。ようやく、こうしてあなたの隣に立てる日が来た」


蒼玄は、紗月の手に髪飾りをそっと乗せた。


「これから先の人生、雨の日も、晴れの日も――あなたの隣を、私に歩ませてください」


紗月は、震える声で、けれど迷いなく答えた。


「……はい。これから先、ずっと」


蒼玄の腕が、紗月をそっと引き寄せた。雨音に紛れて、二人の間に、もう言葉はいらなかった。


数ヶ月後、

桐宮の家には、思いがけぬ縁談の知らせが舞い込んだ。隣国の若き将軍と、桐宮の長女の婚礼。かつて罪人の汚名を着せられた令嬢が、敵国の英雄に見初められたという話は、瞬く間に国中に広まった。


婚礼の日、空は珍しく晴れ渡っていた。


「雨の日しか会えない人だったのに、晴れの日に祝言とは、少し変な感じがしますね」


紗月が小さく笑うと、隣に立つ蒼玄も笑みを返した。


「これからは、晴れの日も、雨の日も、ずっとあなたの隣にいる。だから――」


蒼玄は、紗月の手を取り、その甲に口づけた。


「もう、雨を待つ必要はありません」


宮を見守るように、最後にひと雨だけ、優しい雨が降った。それは、紗月が代筆師として生きた十数年への、静かな手向けのようだった。


雨上がりの空の下、紗月は蒼玄の手を取り、新しい人生へと歩き出した。


―― 完 ――




―――― コマ割り・演出メモ ――――


【扉絵案】晴れた空、宮の前に立つ紗月。


【日常の幸せカット】穏やかな会話シーン。これまでの緊張から解放された柔らかいタッチで描くと対比が効く。


【プロポーズの決め絵】新しい髪飾りを差し出す蒼玄、見上げる紗月。本作で最も華やかな1枚にしたい構図。


【抱擁の最終決め絵】雨上がりの柔らかい光の中での抱擁。


【婚礼ページ・最終見開き】花嫁衣装の紗月、将軍の正装の蒼玄。読者へのご褒美となる華やかな婚礼シーン。


【ラストページ】晴れた空からひと雨だけ降る幻想的なカット→宮の遠景フェードアウトで完。



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