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第四話「想いの証」

戸口に立つ男の顔を見て、

紗月の喉から小さな声が漏れた。


「……義叔父上」


桐宮の分家を継ぐ、紗月の叔父にあたる男だった。十数年前、紗月を陥れた張本人。


「久しいな、紗月。まさかこんな場所で、息災な顔を拝めるとはな」


男の声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。


「将軍殿。他国の内輪事に首を突っ込むとは、いい度胸だ」


蒼玄は、紗月を庇うように前に立ったまま、静かに答えた。


「内輪事ではない。無実の者に罪を着せ、十数年も沈黙を強いた――立派な罪状だ」


「証拠もない戯言を」


「証拠なら、すでに王都へ届けてある。蘭殿の証言書も、貴殿が刺客に渡した金の記録もな」


男の顔が、初めて強張った。


「……っ、おのれ」


男が腰の刀に手をかけようとした瞬間、宮の外から複数の足音と、鎧の擦れる音が響いた。


「桐宮の分家当主、神妙にされよ。王命である」


蒼玄が小さく息を吐いた。


「手筈通りだ。あとは王都の裁きに任せればいい」


連れてこられた兵に取り押さえられながら、男は紗月を睨みつけた。


「貴様さえ……貴様さえいなければ……!」


その声が遠ざかっていくのを、紗月はただ呆然と見送った。


静寂が戻った宮の中で、紗月はその場に崩れ落ちそうになった。蒼玄が、すぐにその身体を支える。


「終わりました。もう、誰もあなたを脅かしはしない」


紗月の目から、再び涙があふれた。今度は、堪えることもしなかった。


「私は……私はずっと、自分が何か取り返しのつかないことをしたのだと、思っていました。蘭を、死なせてしまったのだと」


「あなたは、何も悪くない」


蒼玄は紗月の肩を抱き寄せ、その耳元で囁いた。


「悪いのは、あなたを陥れた者たちだ。あなたは、ただ巻き込まれただけだ」


紗月は、蒼玄の胸に顔を埋めた。十数年ぶりに、誰かに縋ることを自分に許した瞬間だった。


しばらくして、紗月は涙を拭い、顔を上げた。


「蒼玄様。一つ、伺ってもよろしいですか」


「何なりと」


「なぜ、ここまでしてくださるのです。蘭を匿うだけでも、十分なご恩でした。それなのに、危険を冒してまで、私のために……」


蒼玄は、紗月の頬にそっと触れた。


「先ほども言ったはずです。あの夜から、あなたに会うことだけを、ずっと願っていたと」


「それは、蘭への……」


「いいえ」


蒼玄は、はっきりと首を振った。


「蘭殿から、あなたのことを幾度となく聞かされました。雨の日も晴れの日も、誰かのために手紙を書き続ける、優しく強い姉君のことを。会ったこともないあなたに、私はいつしか焦がれていた」


紗月の胸が、大きく高鳴った。


「ようやく、こうして言葉を交わせる日が来た。紗月様――どうか」


蒼玄は、紗月の手を取り、その甲にそっと唇を寄せた。


「これから先のあなたの隣を、私に許してはいただけませんか」


雨音が、いつの間にか止んでいた。


宮の灯りだけが、静かに二人を照らしていた。




―――― コマ割り・演出メモ――――


【扉絵案】戸口に立つ義叔父の威圧的なシルエット。


【対峙の見せ場】蒼玄と義叔父、睨み合う構図を見開きページで。緊張感のあるバトル的演出。


【逆転の爽快コマ】義叔父の顔が強張る瞬間のアップ。「形勢逆転」を絵でわかりやすく。


【捕縛シーン】兵に取り押さえられる義叔父の引きのコマ→紗月が呆然と見送る対比カット。


【抱擁の見せ場】庇護される安心感のカット。蒼玄の腕の中に包まれる紗月、雨が背景にうっすら描かれる構図。


【告白の決め絵・第4話最大の見せ場】手の甲への口づけ。横顔のアップ、雨が止んでいることを背景の光で表現。読者の「きゅん」を狙う最重要カット。

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