104話 進化し続けるぴよぴよさん
104話 進化し続けるぴよぴよさん
「雪の庭」が開店すると、常連客たちが次々と店に集まり始めた。
弥生と忍はいつものように笑顔で席へ案内し、クラリスとセリーヌは軽やかに注文を取る。
厨房では月が新作スイーツ――カッサータの美しい層を丁寧に仕上げていた。
「月様、カッサータってどんなスイーツなんですか?」
興味津々の弥生が尋ねる。
月は手を動かしながら、落ち着いた声で答えた。
「果汁で湿らせたスポンジに、リコッタチーズのクリームと砂糖漬けの果物を重ねて……最後にマジパンで包むの。今日は子どもも来てるから、リキュールは使わないわ」
「華やかでおいしそうですね!」
カウンターで紅茶を飲んでいた雪乃が優雅に微笑む。
「月に覚えてもらえれば、私は楽ができるわね」
「お嬢様、また本音が漏れてますよ」
弥生がじと目で突っ込むと、雪乃は涼しい顔で受け流した。
「私はお店の“品格担当”だから問題ないわ」
天井の小鳥
梁の上、今日もぴよぴよさんが店内をじっと見守っている。
「あら、小鳥がいるわ!」
「花ちゃんのペットでしょ?かわいい~!」
客たちがすぐに気づき、和やかな声が広がる。
花は胸を張って説明した。
「そうそう! この子は《店を見守るペット》なんだよ。頼れる存在なの!」
「可愛くて癒されるわねぇ」
そんな言葉が飛び交う中――
一人の客が席を立った瞬間、ぴよぴよさんがふわっと羽ばたき、その周囲をくるくると飛び回った。
「えっ、ついてきちゃった!」
花が朗らかに指摘する。
「それね、忘れ物を教えてくれてるんだよ!」
客が慌てて席を振り返ると――
椅子の上に小物入れがポツンと残されていた。
「本当に忘れてたわ!ありがとう、小鳥さん!」
「ぴよっ♪」
小さな可愛い返事。
店内は笑い声で満たされた。
「……飼い主譲りのあざとさですね」
弥生が小声でぼやくと、忍が吹き出した。
迷惑なお客様
夕刻。閉店が近づいた頃、突然店内に怒声が響いた。
「おい! このスイーツに髪の毛が入ってたぞ!」
店内が緊張に包まれる。
雪乃は即座に立ち上がり、落ち着いた声で対応した。
「申し訳ございません。詳しく見せていただけますか?」
男が突きつけたのは――茶色の髪。
だが《雪の庭》の店員に、茶髪はいない。
「これは……お客様ご自身の髪では?」
雪乃が丁寧に説明するが、男は怒鳴り返す。
「俺を侮辱する気か! 嘘つき呼ばわりか!?」
周りの客がざわつく。
「見え透いたイチャモンだな!」
「店の雰囲気を壊すなよ!」
空気が張り詰め、男が雪乃へ掴みかかろうとしたその瞬間――護衛の忍やセリーヌが動き出すより速くーー。
小鳥の急襲
「ぴよぴよぴよぴよぴよぉぉぉ!!」
梁から一直線に急降下してきたぴよぴよさんが、
まるで急降下爆撃のように男の頭を連続で突き始める。
「いでででで! やめろぉぉ!!」
必死に逃げ惑い、そのまま店外へ転がり出て行った。
店内は静まり返り――次の瞬間、拍手が起きた。
「小鳥さん、助けてくれたんだ!」
「勇敢すぎる……!」
「小鳥に後れを取ってしまった、私達って…」
ジパングから護衛役としてついてきた忍、ラルベニア王宮より護衛役として派遣されたはずのセリーヌ…2人とも複雑な思いである。
自己進化するぴよぴよさん
花は慌ててぴよぴよさんを抱え、カウンターへ戻って解析を始める。
ケーブルを接続し、端末を開いた瞬間――花の顔色が変わった。
「……うそ。昨日より……さらに進化してる……!」
画面には、一度も書いた覚えのないコードの連続。
“自己修復”に加え、新しく“保護行動”というアルゴリズムまで追加されている。
忍が息を呑む。
「この子……こんなことできますの?」
「できるはずない。
……でも、この子は自分で学んで、自分で判断して――成長してる」
花の声は驚きよりも、どこか震えていた。
小鳥は小さく首をかしげ、まるで誇らしげに羽を揺らしていた。




