103話 ぴよぴよさんの謎
103話 ぴよぴよさんの謎
朝の光が穏やかに差し込む《雪の庭》。
床に揺れる木漏れ日は柔らかく、いつも通りの静かな開店準備が進んでいた。
月は厨房でケーキの仕込み。
弥生と忍はフロアの掃除。
そして花は――カウンターに座り、小鳥型魔導ドローン《ぴよぴよさん》のチェック中。
だが、どこか困った顔をしている。
理由は、目の前の ぴよぴよさんがカウンターにいない からだった。
「……なんで天井の梁に止まってるの?」
梁の上、小さな影がふわりと羽を揺らす。
花が不思議そうに眉を寄せると、モップ片手の弥生が近づいてきた。
「花様、また何か仕込んだんじゃないですか?」
「仕込んでないよ! たぶん。
……昨日の“雪姉様デート追跡モード”の影響が、まだ解除しきれてないだけ!」
「そんなこと堂々と言わないでください!」
弥生が慌てて口をふさごうとするが、花は全く悪びれない。
◇◇◇
「ぴよぴよさん、降りておいでー」
花が呼ぶと、小鳥は素直に降りてくる。
しかし次の瞬間、花はためらいもなくポシェットからケーブルを取り出し――
カチッ。
「ちょっ……! 花様!?」
忍が素で叫ぶ。
「だからそれ、生き物に刺してるみたいなんですよ!?」
「痛くないから大丈夫だってば。魔導具なんだから」
花は軽やかに言いながら、端末の魔法式スクリーンを展開する。
細かなコードとログが流れ、花の指が踊るように動いた。
「えっと……追尾ループは削除したはずなのに……?」
花の表情が徐々に真剣になる。
表示されたログには、びっしりと並ぶ“自己学習”の文字。
「……勝手に自己学習してる?」
忍が思わず息を呑む。
「自己学習……って普通そんな高度な魔導AIでもないと動かないのでは……」
「うーん、私そんな機能入れてないんだけどなぁ……」
花が自分の作った機能に追いつけていない事実は、ある意味一番不穏である。
◇◇◇
最低限のバグ修正を終えた花は、ケーブルを抜き、ポシェットへ戻そうとする。
しかし――
「ぴよっ!」
ぴよぴよさんはくるりと宙を舞い、花の手から逃げると
まるで“本能に従った”かのように、再び梁へ戻っていった。
「えぇぇぇっ!? なんで戻るの!?」
弥生はため息をつき、肩を落とす。
「花様……もう独自判断で動いているようにしか……」
「そ、そんなはずないのに……!」
花の端末は、ぴよぴよさんの挙動を分析しきれず沈黙している。
時計を見た花は、悔しそうに唇を噛む。
「もう開店準備の時間だ……
仕方ない、防犯カメラ代わりに使おう……」
◇◇◇
そこへ月が厨房から顔を出した。
「花、準備できた?」
「うん! ぴよぴよさんも防犯カメラとしていい働きするよ!」
「……不安しかないんだけど」
月の眉が寄ったところで、ようやく雪乃が姿を現す。
「あら、またその小鳥さん。花のペットよね?」
「そうだよ! お店を見守る《防犯用魔導具ペット》なの!」
花が胸を張って答えると、雪乃は特に疑う様子もなく紅茶の準備へ向かった。
「お客様に迷惑をかけないなら、まあいいわ」
◇◇◇
梁の上から店内を見下ろすぴよぴよさん。
その瞳は小さく光り、まるで周囲を観察するかのように動いていた。
花はそっと見上げる。
(ぴよぴよさん……君、本当にどこまで進化していくんだろう……)
不安と、ほんの少しの期待を胸に――
《雪の庭》は今日も開店を迎えるのだった。




