102話 安住の地を見つけたぴよぴよさんと雪の庭の新兵器
102話 安住の地を見つけたぴよぴよさんと雪の庭の新兵器
夜の気配がしっとりと街を包み込み、《雪の庭》の柔らかな灯りも小さく揺れ始めていた。
最後の客を見送り、扉を閉めると――さっきまでの喧噪がまるで幻だったかのように、店内には静けさが満ちる。
「さて、今日も無事に終わったわね」
月がようやくカウンターに腰を下ろし、息を吐く。
すぐ後ろから弥生が顔を出し、うなずきながら笑みをこぼした。
「本当に。今日は特にお客様の笑い声が多かった気がします」
忍もエプロンを外しながら、ぼそっと付け加える。
「そりゃ、花様の頭の上にぴよぴよさんがずっと乗ってましたからね。
あれ見たら、誰でも笑っちゃいますよ」
その視線が向いた先では、花が困ったように小鳥を撫でていた。
「……本当は今日中に直したかったんだけど、結局このままだったね」
◇◇◇
閉店後。
花はカウンターに魔導端末を広げ、ポシェットからケーブルを取り出すと、ぴよぴよさんにカチッと接続した。
「ちょっ……! だからそれ、刺してるようにしか見えませんって!!」
弥生が悲鳴を上げる。
「大丈夫大丈夫。これ魔導具だから痛くないの」
花はいつもの調子で軽く言いながら、端末を素早く操作していく。
忍が覗き込んで目を丸くした。
「でも……本当に生き物みたいですよね。動きも鳴き声も自然すぎて」
「ふふん、そこは私のこだわりだよ。ほら、今からバグ修正するね」
画面には細かいコードと命令文がずらりと並ぶ。
その中に紛れた不審な命令を見つけると、花は即座に削除した。
「やっぱり昨日の追尾命令が残ってた。自動で消えるはずなのに、バグってたみたい」
◇◇◇
「追尾モード……?」
紅茶を飲んでいた雪乃が、静かに眉をひそめる。
その瞬間、店内の空気が急激に固まった。
弥生と忍は“しまった”という顔をして、即座にフォローに走る。
「え、ええと! それは雪乃様の護衛用の機能です!」 「そうそう、防犯です防犯!」
「……怪しいわね」
雪乃はじっと花の方を見るが、当の本人は気にも留めず作業を続けていた。
「うん、修正完了。もう大丈夫!」
ケーブルを外した瞬間――
ぴよぴよさんは羽ばたき、ふわりと花の頭に戻ってきた。
「えっ!? なんで!?」
弥生が肩をすくめる。
「もう花様の頭が巣になっているとしか……」
忍がニヤリと笑った。
「いっそペットにしちゃえばいいんじゃないですか?」
「しないよ!!」
花が全力で否定するも、ぴよぴよさんはすっかり落ち着いた様子で頭に居座り続けていた。
◇◇◇
片付けが終わった後。
花は自室から大きな金属装置を抱えて戻ってきた。
「花様、それは……?」
月が目を輝かせる。
「これね。時間調整ができるストレージなんだ。
中に入れたものの時間を早めたり遅らせたりできるの」
その説明に、弥生と忍が同時に叫んだ。
「発酵とか熟成が思い通りになるってことですか!?」 「夢の魔導具じゃないですか!!」
月も思わず笑みをこぼす。
「これで作れるスイーツの幅が広がるわね……」
一方で雪乃は腕を組み、違う角度で感心していた。
「……つまり、もっと楽できるってことよね?」
「お嬢様! そこじゃありません!!」
弥生の鋭いツッコミが炸裂する。
◇◇◇
花は装置を厨房の片隅に設置しながら、小鳥をそっと撫でる。
「……まぁ今日は直しきれなかったけど、明日こそ完全に修正するから」
月が微笑む。
「でも、今日一日でたくさんお客様を笑顔にしてくれたんだから、それも悪くないわ」
忍も弥生も、同じように頷いた。
「確かに。花様とぴよぴよさんのおかげで、店中が明るかったです」
「……そ、そう言われると悪い気はしない……」
花は照れたように頬を赤らめた。
ぴよぴよさんは、その頭で「ぴよ♪」と満足げに鳴く。
こうして《雪の庭》の夜は――
小さなマスコットと、新たな“秘密兵器”の誕生とともに、静かに幕を閉じていくのだった。




