101話 大人気ぴよぴよさん
101話 大人気ぴよぴよさん
朝の光がカフェ《雪の庭》のステンドグラスを透かし、柔らかな色を床に落としていた。
月は看板を抱え、すっと店の前へ。澄んだ声で宣言する。
「お待たせしました――《雪の庭》、本日も開店です」
その瞬間、外で待っていた常連たちが一斉に動き出した。
速攻でお気に入りの席にダッシュする者、友人と談笑しながら入店する者。
ただ今日は、いつも以上にざわめきが大きい。
「花ちゃん、今日も元気ねー!」 「花ちゃん、注文いい?」
開店直後から、あちこちで花の名前が飛び交う。
カウンターで紅茶を飲んでいた雪乃は、きょとんと目を瞬いた。
「……すごい人気になってない? あの子」
その視線の先では、花が――今日も頭に“ぴよぴよさん”を乗せたまま、軽やかに客席を駆け回っていた。
「はいっ、ただいま伺いまーす!」
花が振り返るたび、頭の上のぴよぴよさんが「ぴよ♪」と愛らしく鳴く。
それだけで客たちのテンションは跳ね上がる。
「小鳥まで連れてるの? かわいい~」 「今日も癒された……」
すでに花とぴよぴよさんは、まるで看板娘とマスコットだった。
「そりゃ、あの子がいると空気が華やぐからね」
厨房から顔を出した月が、当然のように言った。
「じゃあ私は華やがないとでも?」 雪乃はむっとする。
「雪姉様は“品格担当”ですから」 弥生がフォローを入れる。
「……そうね、私は品格担当よね!」
雪乃はなぜか誇らしげに紅茶をすすった。
ただし、忍は小声でひとこと。
「品格……まあ、間違ってはないけど」
聞こえていないふりをする雪乃。
フロアでは、花の人気に拍車がかかっていた。
「花ちゃーん、追加お願い!」 「はーい!」
花が走る。ぴよぴよさんも頭で揺れる。
そのたび「かわいい!」という声が店内のあちこちで弾ける。
しばらく様子を見ていた常連客が、雪乃に笑顔で話しかけた。
「いやぁ、花ちゃんももちろんだけど、月さんのスイーツも最高だよ。
それに、細やかな気配りもこの店の魅力だね」
「……月が原因でもあるの?」 雪乃は意外そうに聞き返し、月は得意げにウインクした。
「当たり前でしょ?」
「二人がいれば、私が働かなくてもいいわね」
「働いてください、お嬢様」 即座に弥生が突っ込んだ。
午後。
ますます店内は活気に満ち、スタッフ全員が飛び回る。
「花ちゃん、こっちもお願い!」 「了解です!」
暑いほどの忙しさの中でも、花の頭に乗るぴよぴよさんは元気に「ぴよ♪」。
そのたびにテーブルから歓声が上がる。
「ほんとにマスコットだわね~」 「お店全体が明るくなる感じ」
雪乃はその様子を見て、どこか複雑そうにしつつも、口元に小さな笑みを浮かべた。
やがて夕方。
ようやく閉店が近づき、雪乃が紅茶を飲み干す。
「今日は……本当に忙しかったわね」
「花の人気がすごすぎるのよ。お客さん、ほとんどあの子目当てじゃない?」 月が肩をすくめる。
最後の客を見送った花は、頭にぴよぴよさんを乗せたまま、へとへとに腰を下ろした。
「ふぅ……なんとか終わった……」
弥生がタオルを渡しながら笑う。
「花様、大人気でしたね。
ぴよぴよさんのおかげで、さらに注目されていましたよ」
「ぴよぴよさんじゃなくて、私の魅力だから!」
花は頬をぷくっと膨らませる。
しかし弥生も忍も、くすくす笑うだけだった。
「まぁ、どっちも可愛いからいいでしょ」 月が優しく肩を叩く。
花の頭で、ぴよぴよさんが「ぴよ♪」と満足げに鳴いた。
こうして、今日の《雪の庭》も
笑顔と騒がしさ、そして小さなマスコットに包まれながら、穏やかに一日を終えていった。




