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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第二十章 烏鶏国の青道士】
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【三百五十三 烏鶏国王、還魂丹により蘇生する】

 孫悟空が烏鶏国王と見られる遺体に還魂丹を飲ませてから数分後。


 果たして、烏鶏国王は静かに目を開いた。


 玄奘を始めその場の誰もが烏鶏国王の様子を固唾を飲んで見守る。


 沙悟浄と猪八戒は互いに目配せをして、襲いかかってきた場合に備え身構えた。


 烏鶏国王は玄奘を見つけるとその場に膝をつき深く頭を下げた。


 「蘇らせてくださりありがとうございます!」


 途端に場の空気は安堵に包まれる。


 彼は僵屍ではない。


 そのことにホッとしたのか、それまで玄奘の袈裟をキツく握っていた玉龍の力が緩んだ。


 「あなたは烏鶏国王さまですね。 昨夜、私の夢に現れた……」


「いかにも、その通りでございます!」


 玄奘の言葉に食い気味に烏鶏国王が返事をする。


 「僵屍じゃ無くて良かった〜」


 玉龍がそう言ってへたり込んだ途端、彼の腹の虫が大きな声で鳴いた。


 「安心したらお腹空いたよ〜! 朝ごはんにしよう! 昨日は全然食べられなかったし!」


「何言ってんだ、お前三杯もおかわりしていたじゃねえか」


 照れ臭さと恥ずかしさで顔を赤くして言う玉龍に、孫悟空が呆れたように言う。


 「詳しい話は食事をしながら教えていただけますか? 烏鶏国王さま」


 「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 玄奘の誘いに烏鶏国王は何度も頭を下げた。


 朝食をとりながら烏鶏国王の話を聞くと、彼が道士によって捨てられてから三年の月日が経っていた。


 「なんと言うことだ……国はどうなっている……王妃と太子は無事だろうか……」


 烏鶏国王はいろんな考えに思いを巡らせては思い浮かぶのは悪い予感ばかりらしく、落ち着かないようであった。


 意味もなく匙を持っては卓の上に置いたり、杯を持ったものの眉間に皺を寄せて茶を飲まずに卓に戻したり。


 とにかく落ち着かない。


 「ちょうど私たちも天竺までの途中、烏鶏国を通りますゆえ、送りましょう」


 「よろしいのですか?!」


 烏鶏国王を見かねた玄奘からの申し出に、烏鶏国王は渡りに船とばかり飛びついた。


 「ああ、なんと慈悲深い……まるで観音菩薩のようです……ありがたやありがたや……」


 「はいはい、だからお師匠さんからそろそろ離れてくださいなっと」


 玄奘の手を握り涙ぐみながら何度も礼を言う烏鶏国王を猪八戒が引き剥がし、なんとか椅子に座らせる。


 「でもさ、コクオウサマを連れてどうやって国に入るの? そのカッコだと、道士に戻ってきたのがばれちゃうんじゃない?」


 口いっぱいに頬張った麺包を飲み込んでから玉龍が首を傾げた。


 「確かにな。 どっからどう見ても、王様の格好で目立つよな」


 孫悟空も難しい顔をして烏鶏国王をまじまじと眺めた。


 「そうだ、髭をそって、炭で眉毛つなげちまうか?そしたら別人になるだろ」


 「ひぃっ?!!


 孫悟空の言葉に烏鶏国王はビクリと体をこわばらせ、口元の髭と眉毛をいじられまいと手で隠した。


 「顔じゃなくて、服装の話だよ」


「顔は頭巾かなんかで隠せばいいだろう。 ただ、服がな……」


 「そうですね、寺の中に僧服がないか見てみましょう」


 そうして食後、寺の中のタンスを探ると古びた僧服が出てきた。


 この寺から逃げた僧たちのものだろう。


「村の方に許可を得て、こちらをいただきましょう」


 烏鶏国王にその着物を着せ、宝林寺を後にした。


 麓にある村に着くと村人たちは安堵した表情で玄奘たちを出迎えた。


「ご無事だったんですね。 よかった」


 寺の案内をしてくれた村人が玄奘たちの後ろにいる烏鶏国王に気がついた。


 「おや、そのお方は?」


「あのあと寺に着いた旅の方です。 烏鶏国まで行くと言うので、そこまで同行することにしたのです。 ただ、申し訳ないのですが着物がひどく汚れてしまい、寺にあった僧服をお借りしました」


「そうだったんですか。 その服は寺を逃げ出した人のものです。戻ってくることもないでしょうからどうぞご自由に」


 申し訳なさそうに玄奘が言うと、村人は首を振ってそういった。


「あ、そうだ、昨日はお化け出なかったよ! 多分もう出ないんじゃないかなあ」


「それは何よりです。 唐の高僧の功徳でしょうな、ありがたや、ありがたや……」


 玉龍の言葉に村人は手を合わせて玄奘を拝んだ。


「いえ、私は、何も……」


 一生懸命拝まれるので、玄奘はタジタジになって村人を止めた。


「烏鶏国に行かれるとおっしゃいましたな。 烏鶏国は三年前よりこの辺りの学問の都と名高く栄えている国です。 きっと、お坊さまも楽しめることでしょう」


 村人の言葉に烏鶏国王は耳をぴくりと震わせた。


「学問の……都?」


「ありがとうございます。 では、私たちは失礼いたします」


 玄奘たちは村人に別れを告げ、村を後にした。


 「平凡であったわが国が学問の都とは……それに、私がいないのに困窮どころか栄えている、だと……?」


 街道の途中で、耐えられなくなったように烏鶏国王はつぶやいた。


 「いったい国で何が起きている……ああ、心配だ……」


 頭を抱えてしまった烏鶏国王に玄奘はそっと触れた。


「これからそれを確かめに行きましょう」


「……はい」


 こうして玄奘たちは烏鶏国王と共に彼の国へと向かう足を早めたのだった。


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