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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第二十章 烏鶏国の青道士】
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【三百五十ニ 烏鶏国王、玄奘の夢枕に立つ】

 夕食を終え、なぜかひどい眠気に襲われた玄奘は、早々に寝床へと入っていた。


 いつもなら寝る前に観音菩薩像に経をあげると言うのに、その日課すらできないほどの強い眠気だった。


「オシショーサマ、大丈夫? ゴクウ呼んでこようか?」


「ええ……大丈夫……です……」


 心配した玉龍が声をかけるが、玄奘は吐息混じりに応えるので精一杯だ。


 本当は沙悟浄と話しをしたかったのだが、眠気に抗うこともできず、玄奘は深い眠りに落ちていった。



 そして、気がつくと玄奘は宝林寺の井戸の前にいた。


 夜遅くのはずなのに、井戸がはっきりと見える。


 まるで井戸自体が光ってるかのように、はっきりと。


(これは……夢、ですね……)


 そう確信を持って、玄奘はゆっくりと井戸に近づいてみた。


 不思議と恐怖感はない。


 その時。


 突然井戸が光り、中から老人が現れた。


 老人は光沢のある濃い黄色の着物を身に纏っており、ひと目で高貴な人物とわかる。


「ありがとう。 あなたの読経のおかげで正気を取り戻すことができました」


 老人は深く頭を下げて感謝の言葉を述べた。


 玄奘は老人に何か言葉を返そうとしたが、驚きのせいかはたまた夢の中のせいなのか、口はうまく動かず言葉も出てこない。


 「私は烏鶏国王。 実は道士に国を乗っ取られこの井戸に捨てられました。 どうか私を哀れと思うならば、ぜひ国をお救いください」


 烏鶏国王だと名乗った老人はそう言うとスゥッと溶けるように消えてしまった。



 翌朝、玄奘は弟子たちを集めて井戸を調べた。


 龍である玉龍に井戸の中へ入ってもらおうと思ったが「怖いからムリ!」と言われ、孫悟空に任せた。


 すると。


 「お師匠様、たしかに人が居ました!」


 孫悟空が井戸の底にいた烏鶏国王の遺体を見つけ持ち帰ってきた。


 それは確かに、玄奘が夢で見た烏鶏国王その人である。


 「ねえねえ、どうするのさ、この人」


 猪八戒の後ろから顔を恐る恐る覗かせながら玉龍が言う。


 「……おかしいな」


 沙悟浄が疑問を呈した。


「長い間水の中にいたにしては、この遺体は綺麗すぎないか?」


「……たしかに」


 沙悟浄の言葉に猪八戒も表情を曇らせ頷いた。


 水の中にいたはずなのに体もふやけておらず、生前と同じまま、ただ眠っているようにも見える。


「そう言えば臭くないし、おかしいねえ」


 玉龍も鼻をひくつかせて言う。


 「井戸の中が涼しかったからでしょうか」


 「それにしては臭わなすぎですね」


 玄奘の疑問に猪八戒は腕を組んでため息をついた。


 生臭くもなく、腐臭もなく、膨張もしていない。


「考えても仕方ねえし、俺様はひとっ走り太上老君のところに行ってくるわ」


 言うが早いか、孫悟空は觔斗雲に乗ってあっという間に飛んで行った。


「ねえねえ、このヒト僵屍じゃないよね……?」


 玉龍の言葉に、腐らず生きる屍体の白骨精を玄奘たちは思い出した。


 白骨精は土地の気を受けて生ける屍となった女怪だ。


 僵屍は俊敏で怪力。意識を持たない低格の僵屍だと無差別に人を襲う恐れもある。


 白骨精は女神によって作られた僵屍のためか意思もあり、会話もできた。


 だがこの烏鶏国王が僵屍になっていたとして、白骨精と同じような僵屍であるとも言えないのだ。


「たしかにこんな綺麗に残ってるなんざ、道士や神仏が関わっていてもおかしくないわな」


 猪八戒は身をかがめてまじまじと烏鶏国王の遺体を眺めながら唸った。


 「夢の中で、この方は道士に王座をうばわれた、と言っていました」


「ああ、そうでしたね。 いずれにせよ僵屍ならば気をつけないと。 制御のためのお札も付いてないですからね」


 そんな会話をしていると、孫悟空が戻ってきた。


 「戻ったぜ! 還魂丹をもらってきた!」


「還魂丹?! また大層なものを……」


 猪八戒と沙悟浄が驚いて顔を見合わせる。


 孫悟空は觔斗雲から飛び降りると、横たわる烏鶏国王の口に還魂丹を放り込んだ。


 「本来生きるべきなら生き返り、魂が肉体を離れるべきならそのまま朽ちるから試してみろってさ」


 「えっ、じゃあ生き返らない場合、その死体は腐り始めるってことでしょ?! やだ、きっと臭いし見たくないよ!」


 玉龍が悲鳴をあげた。


 「見たくないなら部屋にでも入ってれば? もう食わせちまったし」


「バカ! 悟空のバカ!」


 「まあまあ、きっと大丈夫ですよ。 沙和尚たちもいますから、ね?」


 あまりの恐怖に孫悟空への罵倒を始める玉龍を、玄奘は宥めながらチラリと沙悟浄に視線を投げかける。


 「え、ええ、もちろんですよ」


 玄奘の視線を受けた沙悟浄はすぐに視線を逸らし、ぎこちない笑みを浮かべ返事をした。


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