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深沙の想い白骸に連ねて往く西遊記!  作者: 小日向星海
【第二十章 烏鶏国の青道士】
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【三百五十 宝林寺の謎の井戸】

 男性に続いて村の男たち五人が手ぬぐいで汗を拭きながら出てきた。


 全員寺を管理する村の人間たちなのだろう、衣服は僧侶のそれではない。


 見た目は古臭くとも、寺らしく敷地は広い。


 管理するのにも人手が必要なのだ。


 孫悟空が觔斗雲から見たのも彼らなのだろう。


「こちらの旅のお坊さんが、このお寺に泊まりたいんだって」


 背の高い少年の言葉に男性は驚いた顔をした。


 五人の男たちも困惑した表情で顔を見合わせている。


「あの、子どもたちから聞いてると思いますが……あまりお勧めはできませんよ」


「村で泊まったらいいじゃねえですか?少し歩きますが、ここより絶対良い」


 男たちが口々に心配そうに言う。


「良いのです。 ここにきたのも御仏のお導きによるものでしょう」


 玄奘がそう言って拝む仕草をすると、男性はしばらく難しい顔をして後ろにいる五人を振り返った。


 誰も首を傾げたり不安げな顔をしている。


「ぜひ私に供養をさせてください」


 先頭に立っていた男性は玄奘を見て、しばらく考えてから小さく頷いた。


「じゃあ……一晩だけ、一晩だけならお泊めします。 あなた方の身の安全が一番ですから、明日以降も村に滞在するならこの麓にある宝林村の村長のところに来てくださいね、宿を用意いたしますから……と言っても集会所ですが。良いですね、必ずですよ」


「夜でも危険だと思ったらすぐに村に逃げてきてくださいね」


「ねえ、そんなにキケンなの?」


 村の男たちが何度も念を押してくるので不安になった玉龍が、猪八戒の後ろに隠れたまま顔だけ出して男性にたずねる。


「この寺に住んでいたお坊様がみんな一晩で逃げ出すくらいですからね……寝具などは一応手入れはしておりますので、ご不便はかけないと思いますが……」


「ねー、やっぱり村に行こうよー!」


「諦めな。お師匠さんは頑固者なの、知ってるでしょ」


 男性の言葉に涙目になった玉龍が猪八戒の袖を掴むが、即却下されて項垂れた。


「お化けの声がする井戸は念のため使わないことをお勧めします。 水瓶の水は我々が毎日変えておりますので、そちらをお使いになってください」


「わかりました。何から何まで助かります」


 村人たちは説明を終えると、子どもたちと連れ立って村へと帰っていった。


「さあ、行きましょうか」


 玄奘は微笑むとスタスタと歩いて寺の中へ入っていった。


「お待ちください、お師匠さま! 少しは警戒を……!」


 慌てて沙悟浄が後を追いかけていく。


「ねえ、ねえ本当にお寺に泊まるの??」


 玉龍が猪八戒にしがみついたまま抵抗をする。


「しつけえぞ玉龍! 俺様たちは日が暮れる前に寝床の支度だ」


 そんな玉龍の手を引き孫悟空は寺の中へ入っていく。


「考え直そうよ! お化けが出るんだよ!」


「大丈夫よ、玉龍ちゃん。 オバケなんか怖くないって思うくらい美味しいご飯作るからね!」


 その後から宥めるように言う猪八戒が寺に入り、戸を閉めた。


 先に入った玄奘は寺の本堂に行ったのかと思いきや、中庭にある井戸の前で経を詠んでいた。


 その後ろでは沙悟浄が辺りを警戒して目を光らせている。


「うわああ、アレだよアレ! アレがお化けの井戸だよ!」


 玉龍は井戸を指差して大声で叫んだ。


「うるせえよ! お師匠様のご迷惑になるだろーが!!」


「ご、ごめん……でもさぁ!」


 孫悟空に叱られながらも玉龍は井戸を指差した。


 一見すると普通の井戸にしか見えないし、不気味な雰囲気すらない。


ただ、使えないように桶や縄は外されている。


「あそこが村の人たちが言ってた井戸なんでしょ? 気になるじゃん」


 騒ぐ玉龍にも玄奘は集中を切らすことなく読経を続け、やがて終えると観音菩薩像をしまい立ち上がった。


「本堂にも行ってまいりますね」


「俺様たちは寝床と食事の支度をしておきますので、終わったら声かけます」


「はい。宜しく頼みます」


 玄奘はそういうと本堂の方へと向かった。


「では俺も……」


「あ、悟浄ちゃん待って」


 猪八戒は玄奘のところへ行こうとする沙悟浄を引き留めた。


「悟浄ちゃん、何か気配とか感じる? オレにはなーんにも感じないんだけど」


 猪八戒が訊ねると、沙悟浄は無言で首を振った。


「俺もだ。 だがここから次々と逃げだしていくと言うからには、やはり何かあるのだろうな」


 難しそうな顔をして、沙悟浄が井戸を眺めた。


「水は見えるけど、桶がないから汲めないし……匂いも普通よねぇ」


 猪八戒は井戸を覗き込んだが、真っ暗で何も見えなかった。


「何、お化けが出るって言ったら夜と決まってんだろ。 まだ時間はあるんだ。 さっさと飯食って寝ようぜ」


「そ、そうだね、早く寝ちゃお!」


「玉龍、ビビって寝小便たれるなよ〜?」


「たれないよっ! ボクをいくつだと思ってるの?!」


 日はすでに沈みかけており、あたりを赤く染め始めていた。


 孫悟空たちは、完全な夜が来る前にと、寝床と食事、それぞれの準備に取り掛かったのだった。

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