【三百四十九 玉龍、宝林寺に滞在することを嫌がる】
玉龍は顔面蒼白になって猪八戒の背中に隠れながら子どもたちに訊ねた。
「このお寺、お化けが出るの?!」
子どもたちは顔を見合わせてヒソヒソと話し始めた。
中には口を押さえてこれ以上余計なことを言わないようにしている子どももいる。
「ここは誰も住んでいないお寺なのですか?」
玄奘が身をかがめ子どもたちに優しく訊ねると、子どもたちはおずおずと口を開いた。
「うん。 前はいたんだけど、お化けが出るって言ってどこかに行っちゃったんだ」
「そうそう。 だから村の大人たちがお掃除とかしてるんだ」
「まあ……それは大変でしたね。 それなら私たちがお化けがいないか見てみましょう」
「オシショーサマッ?!」
玄奘の言葉に玉龍は盛大にずっこけて叫んだ。
そして必死の形相で子どもたちに迫った。
「違うよ! そうじゃないでしょ! お化けが出るならこんなところ泊まれないよ! 別のところ探そうよ!」
そしてさらに、玉龍は必死の形相で子どもたちに迫った。
「そうだ、ねえねえ、キミたちの村ってどこか泊まれるところないかなあ?」
「これ玉龍、そんなことを言っては迷惑ですよ。 お化けが出るなら村の人たちも困っていることでしょうし、私たちが確認して差し上げましょう」
「オシショーサマぁ!」
「悟空も八戒も沙和尚もいるんですから大丈夫ですよ」
「オジサンは? お化けが出るお寺なんて嫌だよね?? ね??」
「いやオレは別に……平気だけど」
玉龍は孫悟空、沙悟浄、猪八戒の中でお化けを一番怖がりそうな猪八戒に同意を求めるが、残念ながら同意は得られなかった。
「だーいじょうぶだって、お化けなんて俺様がぶっ飛ばしてやるからさ!」
孫悟空は如意金箍棒をクルクルと回しながら豪快に笑って言う。
「沙和尚も……大丈夫、ですか?」
「ええ、俺は平気です。 幽鬼も妖怪もみなれたものですから」
玄奘が訊ねると、沙悟浄は少し身構えたように一方後退り、玄奘の方を見るが目合わせずに答えた。
「そうね。 たしかに天界で働いてたオレたちにとって、幽鬼はむしろ馴染み深いものだわね」
「ボクはナジミブカくなーい!
玉龍は両手を振り上げて叫んだ。
猪八戒や沙悟浄、孫悟空は妖怪や悪鬼の討伐を仕事としていたが玉龍は箱入り息子。
竜宮の奥で甘やかされて暮らしていたので、幽鬼や悪鬼などに遭遇したことはなかった。
玄奘は寺で過ごしていたのでこのような怪談ごとは日常茶飯事と言ってもいいだろう。
「そのお化けさんはどんな方かわかりますか?」
しかし、こうと決めたら譲らない玄奘は子どもたちに訊ねる。
子どもたちは顔を見合わせて、一番背の高い少年が説明してくれた。
「誰も姿は見たことないんだけど、夜中に“かえしてくれ、かえしてくれ、かえりたい、かえりたい”っておとこのひとのこえが響くらしいよ」
「ヤダー!!」
子どもたちの話に玉龍は耳を押さえて震え上がり、猪八戒の後ろに隠れた。
「まあそれは可哀想な……これも何かの縁です、御仏のお力を借りてその方を助けなければなりませんね」
「う、う〜ん……やっぱりボクだけキミたちの村に行こうかな……」
やる気を出す玄奘とは正反対に、玉龍がこっそりと子どもたちと村に行こうとすると、孫悟空が玉龍の首根っこを掴んで引き留めた。
「だめにきまってんだろ」
「え〜! じゃあ何でゴクウたちはオシショーサマを止めないの?! 無茶をしそうな時は止めてってこの前言われたよね?!」
「話を聞く限り敵は妖怪じゃなさそうだし……幽鬼くらいなら大丈夫だよ」
猪八戒が玉龍を宥めていると、門の端にある出入りのための小さな木戸が低く軋んだ音を立ててゆっくりと開いた。
「何かこの寺に用事ですかな」
姿を現したのは初老の男性だった。




