プレゼント
いつまでも、今が続いてほしい気がする。
「はぁ。」
突飛もないことを言われた優人は、困惑を隠すこともなく返事をした。話の流れはわかる。
『秩序』と『混沌』という2勢力の均衡が崩れたから、それを正すために、力を持つものを倒す。
その力を持つものが、《不尽の魔王》という存在なのだ。
…が。
「なんでそれを僕に依頼したのですか?」
優人は人並み以上の力はあるものの、異変調査屋のなかでは貧弱な方だ。加えて、そもそも自己評価が低い。
疑問を感じるのは当然だった。
「そうですね。あまり大きな理由はありませんよ。」
複雑な顔をする優人の前に、セミスパトは指を立てた。
「異変調査屋の方々の中で、『秩序』の影響を受けた方がかなり少ないのですが、あなたは偶然にもその一人だった、というだけですね。」
「…別に、わざわざ『秩序』の影響を受けた人を選ばなくてもよいのでは?」
「まぁ、それに関しては、『秩序』の影響を受けた人しか、ワタシたちも影響を与えられない…、と思ってもらえれば。」
詳しい説明は無駄に長くなるだけなので省きます、と断りがあった。
「それに、あなた一人だけに頼むわけではないので。」
「なるほど。…ちなみに誰ですか?」
そう聞くと、セミスパトは答えに詰まったのか、頭をかいた。少し時間がたつ。
「うーん、そうですねぇ。本当なら企業機密ですが…」
どうせすぐにわかるので、誰なのかヒントをあげましょう、と返答が来た。
「一人は、あなたの近くにいる存在。今、宿屋で寝ています。」
「…。」
あの2人のどちらか、だろう。
「もう一人は、あなたの知らない存在。ここからはるか南、大きな湖のもとに、静かに佇むものです。」
セミスパトの立てた指を見つめる。
「期待していてください。きっと楽しいですよ。」
大きな笑顔が優人に向けられた。作り笑いのようにも見えるけども、そこまで不振に思うものでもない。
しかし、その雰囲気の和らぐ笑顔も、次の瞬間には消えた。
「それで、依頼に関して、いいお返事は貰えますかね?」
「そ、そうですね。えっと。」
こういう時、なんて言ったらいいんだっけ。
…あ、あれだ。
「依頼の対価は何ですか?」
「あぁ、説明してませんでしたね。世界の再構築です。」
「あぁ、そうなんですか。」
セミスパトは何でもないかのように説明した。そのせいで、上手く聞き取れずに適当に返事をしてしまった。えっと。なんて言った?
「…すみません、もう一回言ってもらえませんかね。」
「はい、世界の再構築です。」
どうでもいいかのような声色の返答が返ってくる。
「…どういうことですか?」
「え?そのままの意味です。世界…地球を一回再起動して、いろいろ直すんですよ。ワタクシたちの力ならできますので。」
なんでわからないのか、というふうの少しうんざりした声が聞こえた気がした。…自分が理解できないのが悪いのだろうか。
「…なんでそんな事を?」
「『秩序』の影響が大きいからです。記憶の補助にも流石に限界がありますので、元凶を取り除いてから世界を作り直して、無理やり正常な状態に直します。」
まさに馬の耳に念仏というか、この髭さんが何を言っているか全くわからない。また聞き返そうかと思ったが、余計難しくなるように感じられた。
「もちろん、あなた達の家族もいる状態ですし、かといって今の世界の出会いがなくなるわけではありません。そこは安心してください。」
なるほど、つまり何か不利益被るとかはあんまり無いということだろう。ならいいや。もう面倒くさいし。
「分かりました。説明ありがとうございます。」
「それで、依頼のほうは?」
「引き受けます。」
そう言ってから少し後悔した。別に保留にもできたかもしれない。適当に返事をしすぎたか。
「そうですか!ありがとうございます。」
今度は屈託のない笑顔が向けられた。あくまで仕事メインという考えは、何となく複雑な気になるが、参考にもできるかもしれない。
「依頼の期限はないですが…。異変は放置すればするほど強くなるというのは知っているでしょう。《不尽の魔王》の成長スピードを見るに、今年中に倒さないと討伐はほぼ不可能になりますね。」
中々恐ろしい事を聞いた。なるほど、いろんな意味で別に返事を保留にしなくて良かったようだ。
「そうなったら世界は終わりですかね。頑張ってください。」
そう言うと、セミスパトは少し黙った。依頼相手を脅かしすぎたことに気づいたらしい。顎に手を当て、頭をぐるっと回した。
「じゃあ、ここでちょっとしたエールを。」
そういうと、セミスパトはおもむろに握りこぶしをつきだした。くるっと回して開くと、小さなナッツが現れた。
「こちら、何の変哲もないナッツですが、これを反対の手で握ると…?」
滑らかな動きでナッツが移動し、そのままの勢いで拳が握られる。割れてしまうんじゃないかと思うほど強く握られた手が開かれると、ナッツは2つに増えていた。
セミスパトは、優人に大きい方のナッツを手渡した。
「ワタシたちに、魔王を倒す手助けはあまりできませんが…。」
口に運んで噛んでみると、素朴な甘さが口に広がる。
「あなた達の思い出を、取り戻すことはできます。」
「…。」
「どんなに美味しいスイーツだろうと、誰かと一緒に食べるナッツに勝つことはできませんから。」
そういうと、セミスパトもナッツを口に投げ入れた。カリッと音がなる。
「それじゃ、そろそろ行きます。この夢の続きは、また今度に。」
赤い服の仕事人は、そうして扉のドアノブに手をかけた。が、何か思い出したように、ドアノブを捻った後動きが止まった。優人が何だろうとに思っていると、セミスパトは静かに口を開いた。
「一つアドバイスです。明日の朝、起きてから寝るまで、あなたの武器を肌見放さず持っていてください。」
何かを案ずるような声だった。
「ワタシの仲間の一人がせっかちでしてね。あなたのお仲間にご迷惑をおかけしてしまうと思います。」
そう言葉が聞こえた。そうして気づいたときには、半開きの扉の前に、もう人影はなかった。
実は鈴木家の家の構造は、自分の家じゃなくておばあちゃん家を参考にしていたりします。
なんでかって?
…自分家に俺の部屋がないからだよ。




