ゲームのしすぎは良くないよ
疲れたときは、家に帰ろう。
「優人!ご飯できたわよー!」
あれっ?
「はーい!」
大きな声で返事をした。するつもりはなかった。
目の前には、変な武器を構えた人が立っている、ゲーム画面が開かれていた。
「セーブしなくちゃ。」
思いを口にした。しかしそれは、頭の中で完結して、実際に出てきたのはまったく関係のない言葉だ。
「あ、とうふ、もう時間か?」
声がした。見ると、スマホの画面が光っている。通話中だから、誰かと一緒にやっていたのかもしれない。
「う、うん。」
「そっか。楽しかったぜ!じゃ、また明日。」
「また明日。」
通話の相手は、最後にばいばーいと言って去っていった。
優人はパニックになって立ち上がった。無理もない。自分はさっきまで寝ていたはずなのに、それがどうしてか、目が覚めたら誰かと誰かに挟まれて、ゲーム画面を前にしていたのだ。
ここはどこだろう。それを知るために、まず、スマホを手に取った。その後、ゲーム機も持って、部屋の扉を開けた。
あれっ?
「おい、優人?どうした、急に立ち止まって?」
横から人の声がした。今度は、背が高く、日焼けした顔の、男性が出てきた。
「兄ちゃん。別に、何でもないよ。」
「そっか。じゃ、早くリビング行こーぜ。」
そう言って、その男の人は奥の光るほうへと向かっていった。その背中を呆然と見つめながら、優人は何となく気づいた。
「ここ、俺の家か…?」
先ほどの池田の言葉が頭に響いた。
「やっぱり、覚えていないですかね。」
…そうだ、その通りだ。
優人が何かを思い出そうとした時、後ろから扉の開く音がした。
「ただいまー。」
「パパとてる、かえってきたよー。」
帰ってきた家族に、大きく手を振った。
頭を抱えようとすればするほど、手は大げさに動く。
その気持ち悪さに、優人は顔が引きつった。その表情をみて、帰ってきた二人は笑顔を返してきた。
「ずいぶんと嬉しそうだな、優人。」
「そんなにてるにあいたかったのー?」
二人はそうやって嬉しそうに話した。その無邪気な笑顔は、優人の心に深く刺さってきた。
自分は、この人たちが誰だかわからないのだ。
「おかえり。もう、ご飯できてるって。」
「お、ちょうどいい時間に帰ってこれたか。」
「おゆうはんー!」
一人称を、てる、と言うその女の子は、優人の横を通り抜け、リビングのほうへと駆け抜けていった。
「手、洗えよー!」
お父さんと思わしきその人は、リビングのほうへと向かって笑いかけた。
「じゃ、優人も、ほら。」
「うん。」
一連の雰囲気を見て、優人は少し安心した。ここにいる家族は、今のところ、誰も悪い人じゃなさそうだ。
とはいえ、今は少し一人にしてほしかった。
「でも、先にトイレ行ってくるね。」
「お、そうか。じゃあ、待ってるからな。」
そう言うと、その人は、ここよりも明るいところへと向かっていった。
「さて…、どうしよう?」
光の薄い電球を見つめる。暗い。…暗い。そうだ、黒眼は居るのだろうか。
「おーい、黒眼。いるか?」
返答を待つ。電球がパチパチと音を立てた。
「…いないか?」
数分待っても、返答は返ってこない。とりあえず、状況を整理しようと、優人はトイレを探した。
廊下を少し進むと、
「ここかな?」
洗面所の横に扉があった。少し場所が高いドアノブを
機にしながら、開けてみる。
「…暗いな。」
廊下も暗いし…。やめておこうかなぁ…。
よし、リビング行こっと。今日の夕飯は何かなぁ。
そうして優人は、リビングの扉を開いた。
ん???
「お、きたか。」
「きょうははんばーぐ!」
兄妹の2人が声をかけてきた。
「やった!」
自分の頭では後退りしようとしているのに、自分の体はどんどん前へと進む。座ったらもう戻れないと分かっているのに、抵抗すればするほど、食卓に近づいていった。
「今日は和風ハンバーグにしてみたよぉ。」
「めっちゃ美味しそうだ!」
両親もにっこり笑いかけてくる。
「待たせてごめん!」
「よし、じゃあ、早速食べよーぜ!」
「おててをあわせて!」
いただきまーす!…いただきます。
…誰か、自分の本当の言葉を聞いてくれる人は…?
「おいしー!」
「おい、てる、こういうのは野菜から食べたほうが体に良いんだぞー?」
「ハンバーグ、ちゃんと火ぃ通ってる?」
がやがやと話し声が続く。優人は、これは、一回諦めたほうがいいかな、と思った。無すすべがないのだ。
「なんか、今日の味噌汁美味しいね。」
「そぉ?入れた味噌が良かったからかねぇ?」
「ポテトもおいしいぞ!」
「それは冷凍よぉ。」
笑い声が聞こえてくる。
何となく推察するなら、きっと、ここは夢の世界だろう。そうやって夢の世界で気づくのも変な話だが、でもそうやって思うのが普通、そういう状況だ。
夢の中だというのなら、この世界を楽しむのも悪くない。そう思うと、時間は一瞬で過ぎていった。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそさまでしたー。」
「食器はちゃんと台所に戻していてねぇ。」
「はーい。」
ハンバーグも、味噌汁も、かなり美味しかった。誰かとご飯を食べるという事の大切さを、優人はほんのりと思い出した。
「じゃ、風呂はいれよー。」
「てるがいちばんー!」
「あ、こら、食器片付け終わってないだろー!?」
本当に、この家族はずーっと騒がしい。
「僕は一回部屋に戻るね。」
「オッケー。」
少しこの家で過ごし、優人もかなり落ち着いてきた。状況を整理するのには、ちょうどいいタイミングだ。
先ほどの部屋に戻り、後ろ手で扉を閉めて、部屋の電気をつけた。
「…。」
部屋の中は、特に散らかった様子もない。
が、それより。冷静になればなるほど、事の状況が深刻に伝わってくるのだ。
「これ、夢じゃないよな。」
優人は冷えた床に座り込んだ。
妙にリアルな感触、特に味覚は、夢の中でこれほど鮮明に感じられるとは到底思えない。しかし、目が覚めてすぐ、物語を進ませようとするかのごとく何かからの強制力を感じたのもまた事実だ。
はたして、夢か現実か、はたまたそれ以外か?
コン、コン、コン、コン。
床を見つめる優人の耳に入ってきた音は、軽めのノック4回。
4回。
少なくとも、家族の誰かがしたノックではないことは、優人にも分かった。
「こんにちは。優人殿。勝手だけれど、入らせて貰いますよ。」
いろいろ聞きたいことがあると思いますが、ここでは一つだけ。
優人のあだ名、「とうふ」の由来は、
・頬がめちゃ柔らかい
・ひっくり返すと「とうゆ」…はなんか変なので
ですね。




