紫暮時
そろそろミミズが干からびる季節になりますね。
「あなたたち、鈴木さんと麻績さんですよね?」
「はい…、そうです。」
池田がきたのかと無意識に期待していた鈴木の目に飛び込んだのは、池田とは似ても似つかない、華奢な体型の持ち主だった。
疑問を覚えた鈴木だが、しかし相手も何故か疑問を浮かべた表情をこちらに向けてきた。
「えっと、その、お取り込み中でしたかね?」
相手の気まずそうな質問を受けて、鈴木は片腕が異様に重いことを思い出した。麻績はまだ眠っている。さて、どう説明すべきだろうかな。
「あ、全然、一切なにもないので大丈夫です!」
あのことは一応隠しつつ、大まかな事を伝えてみた。
「そうですか…。」
「それより、この人眠ってしまったみたいなので起こすか眠れる場所に連れて行くかしたいんですけど、協力してくださいませんか?」
とりあえず話題をそらす。変に思われたら面倒くさいし、何より結局腕は痛くてそろそろ限界なのだ。
「わかりました。…ちなみに、起こそうとはしてみましたかね?」
「一応、起こそうとしてみたのですが、どうにも反応が悪くて…。」
そう答えると、相手は状況の把握を馬鹿らしく感じたのか、大きめのため息をした後、麻績の耳元に近づいて呼びかけ始めた。
「麻績さーん、起きてくださーい。鈴木さんも困ってますよー。」
耳がキーンとするほどの声が響いた。軽く出してるなら凄い声量だ。が、それよりも何だ?困ってる?
…、いや、そうだけど。困ってるけど。
そうやって困らせられてる相手に直接その事を言われるのは何となく抵抗が…。
「うーん」
「あ、起きましたね。」
「…本当ですか!」
あぁ、良かった。で終われば良かったが、鈴木は先ほどの麻績の様子の事を心配していた。あの、明らかに正気を失っていたようにまたなれば、流石に誰か怪我をすると思う…。
「あれー、ここはー…」
麻績は顔を上げたあと、一瞬寝ぼけていた顔をしたがすぐに緊迫した表情に変わり、すくっと立ち上がって、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
「…、あ、鈴木君!大丈夫ですか!」
自身が立っている所のすぐに下にいた後輩を見つけた麻績は、何となく疑問を抱きながらも後輩の様子を確認しようとしゃがんだ。
「はい、僕は何も!それより、麻績さんは大丈夫なのですか!?」
鈴木も自由に動けるようになった事に安心しながら立ち上がりつつ、麻績の様子を確認する事にした。
当の麻績は困惑を隠そうと必死だ。何かあったっけ。異変解決のためにここにきて、後院は…。
麻績は頭を振った。おそらく、思い出さないほうがいい。
「…鈴木君、私は大丈夫ですよー!元気もりもりですー!」
いつもどおりへにゃっと笑ってみせると、鈴木はホッとしたような顔を見せてきた。
「あの、すみません。そろそろ話していいですよね。」
その声は待たされた苛立ちを隠しきれていなかった。たぶん助けに来てくれた人だろうから、これ以上またせるのは申し訳ない。
「あ、はい!」
「…それでは。もう一度確認ですが、あなたたちが街角異変調査屋2号店、調査員の鈴木さん、麻績さんですね?」
「そうですー」
確認したかったことがやっと出来たとばかりに、相手はこれまた大きなため息をついて続けた。
「了解です。私は街角異変調査屋、群馬支部の裾野紫暮と申します。お二人の捜索の手助けに来ました。」
相手はそう言って、丁寧に頭を下げた。ショートカットにすらっと華奢な体つき、中性的な顔立ちの人だ。
「今、異変調査屋群馬支部の者と、池田さんが来ております。こちらについてきてください。」
伝えたかったことは言えたようで、相手は背中を向けると、暗い森へとスタスタ歩いて行ってしまった。こちらは慌ててついていくしかない。
「麻績さん、あの。」
「なんでしょうー?」
「さっき裾野さんが捜索に来てくださっている人を言って居た思うんですけど、」
どうにも一つ引っかかるところがあった。捜索といえば、ある機関の名前が出てくるものと思っていたのだが。
「警察の方って来ていないようでしたよね?何故だかわかりますかね?」
「あー、よく気が付きましたねー、流石ですー」
麻績はそう言って鈴木に笑いかけた。とうやら、何か心当たりがあるようだ。それに、褒められるのは素直に嬉しい。
「そのことですがー、」
こう話している間にも、裾野の背中は少しづつ遠くなる。急いだほうがいいだろう。
「池田さんと合流したら説明しますねー」
そういうと麻績は前を向き直し、暗闇に遠ざかる背中を、後輩を気にかけつつ追いかけた。
(ここって、昔は蛍とかいたのかな。)
黒眼がぼやいたのが聞こえた気がした。
しばらくすると一行は森を抜け、虫の音がする中でひときわ輝くほうへと向かっていく。
「あ、池田さん!」
「鈴木君!それに麻績君も!」
少々まぶしかったが、そこから安心したのであろう声がよく聞こえてきた。横に知らない影が2つ並んでいる。
「大丈夫でしたか!!?」
「はい、特になんと…も!」
「良かったです!」
近づいてきた池田は、大汗をかき、肩で呼吸をしていた。かなり必死に探していたのが伝わってくる。
鈴木はひとまず、あのことは黙ることにした。
「おー、見つかったようで良かった良かった.」
「こんな夜遅くに連れ出してこんな一瞬で終わりなら来なくてよかったんじゃぁ…、」
知らない影から発せられた声は、もちろん知るものではない。
「ども、群馬支部の伊藤と小林です.」
「帰りたいよぉ、」
一人は身長が自分と同じくらいの男性で、もう一人、ずっと文句を言っている方はかなり小さい身長の女性だった。
「助けに行ってた身分の私たちがそんな事言ってたら世話ないでしょ。」
「だってぇ〜、こんな夜遅くなんて聞いてないですよぉ〜、」
「まあまあ、彼らが見つかってハッピーハッピーで、それでいいじゃない.」
うわーんと泣き声がそこそこに、池田は少々笑いながらも息を整え、鈴木と麻績に向き直った。
「麻績君も、特に何も問題ないですか?」
「はいー、なんにも問題ないですー」
そう聞くと池田はやっと安心したようで、長い息をついた。
「鈴木君も麻績君も、無事で何より…。それでは、そろそろ特殊屋が来ますから、帰りましょうか。」
「特殊屋?」
「鈴木君ー、私が説明したかったのはそれですよー」
そういうと麻績はにやりと笑った。
細切れのを少しづつ上げてくスタイルにしようかなーと思っています。頑張る。
裾野紫暮
性別は…、外見からはイマイチ分からない。20代後半。
同じ支部の人間から、アラサーになった事をいじられ続けて3年目。あれ、年齢ばれるかな。
最近は帽子を集めることにハマっている。
得意料理は天ぷら。好きな食べ物も天ぷら(特に舞茸)。
名前の由来
裾野はそのまま裾野。紫暮は、親が春はあけぼのみたいなノリの名前を考えてつけたらしい。たぶん、一番由来がはっきりしてる名前だと思う。




