空腹
夜を裂く一筋に
後院が倒れた後、鈴木は烏を通じて池田に異変解決の連絡をした。それと同時に、警察を呼んでほしいとも伝え、彼らの到着を、2人は後院のそばで待っていた。
「ま、麻績さん…。」
何度呼びかけても返事はない。何か問題があったわけではないのだ。ただ、あの後から麻績はヘタリとその場に座り、うつむいて、ピクリとも動かなくなった。最初は心配して肩を揺らしたが、特に変化はなかった。
何か気絶したりとか、そういうわけではないとわかるのは、一度顔を覗き込んだときに、目が開いていて、瞳がこちらを向いたからだ。
黒かった。深淵に沈むような瞳があった。
鈴木が麻績に強く呼びかけようとしないのは、それも原因にあった。
しかし黙っているのも、ただ夜の闇に飲まれるのを待つようで、それに人の死体のそばでいるのは良くないと思いつつ、麻績にどうしても正気に戻ってほしいと考えてしまう。
ガサッ
「…!なに、なんの音!?」
その音を皮切りに、歩いてくるような音がした。警察かと安心したのもつかの間で、鈴木はすぐに相手が人間でないことを悟った。
すらっと長い手足に、頭部と思わしきところからは植物の茎のようなものが生え、大きな赤い花が咲いている。
「こいつら、今朝の双葉頭の異変が進化したやつかな…!」
疑問は暗闇に吸い取られ、その上暗闇を消さんとするかのように、月の光を反射して大輪の花が近づいてきている。
麻績はどうも戦えそうにない。鈴木はひとまずブーメランを持って応戦することにした。
(よ、おはよう。元気かい?)
「なわけ…!」
(協力したほうがいいのかもしんないだろうけど、めんどくさいしいいよね。見てるから頑張れ。)
「うるさいから黙ってろ!」
黒眼に辟易しながら、一方で鈴木はどうしたら効果的にダメージを与えられるかも考えていた。
試しに首(茎?)を狙ってみるか。
「えいっ!」
その声と共に鈴木が思い切り投げたブーメランは、綺麗に真っ直ぐとんでいき、大輪の異変の首らしきところをきり裂いた。
「どうだ…?」
弧を描くように上から戻ってきたブーメランをキャッチしつつ、相手の動きを警戒する。しかし、その必要はなかった用だ。
大輪は大きな音を立て、そのまま灰のような質感にかわり、風に飛ばされていってしまった。
「やった!これならどうにか…!」
希望が見えた。後は頑張って残りの5、6体を倒すだけだ。
刹那。
ヒュッ
「へっ?」
安心しきった鈴木の横を、蛇が素早く横切り、目の前の大輪にかみついた。
「ぅ〜」
声が聞こえてきた。この場にいて声が発せられるとしたらあと一人だけだが、しかしその声は、どうにも今まで聞いたような声ではない気がした。あまりにも子供っぽい。
「おなかすいた〜」
ドゴォ!
「麻績さん!?」
麻績は気の抜けた声とともに、一気に大輪に近づいたかと思うと、手で茎から上をちぎり、そのままの勢いで齧りついた。
「ぅん〜」
「麻績さん!大丈夫です…」
「おいしくない」
麻績の目がギラリとこちらを向いた。蛇睨みと言うべきか、鈴木の心は瞬時に麻痺してしまった。
「か。」
「おまえはどうなの〜?」
麻績はそういうと鎖を一振して、周りに見えていた大輪を一気に根こそぎ取ると、片っ端からかみついた。
しかし、それで何かが変わるはずもなく、しばらくして麻績は、呆然とする鈴木へと矛先を向けた。
ヒュッ!
「…待って待って待って!」
鎖は間一髪のところで避けられた。麻績の状況が分からない。とりあえずブーメランを構えようとした瞬間に、
ドゴォ!
さっきと同じ流れだ。それに気づいた鈴木は、麻績の動きを見ながらまたしても間一髪で避け、どう対処するか考えた。
「逃げるなぁ〜」
またしても鎖が飛んでくる。この時鈴木が思ったのは、麻績は投げた鎖に沿って飛んでいるから、いいタイミングでブーメランを置いておけば麻績が上手く引っかかり、止まってくれるのではないか、ということだ。
ドゴォ!
来た!
「えい!」
できる限り鎖の近くでブーメランが滞空するようにイメージした。
がしかし、ブーメランを投げるタイミングが早かったのか、麻績はさっきより高く跳んでいて上手く止まってくれなかった。
鎖は先ほどと同じように避けられたが、そのまま跳んできた勢いで麻績に殴られでもしたら多分無理だろう。
どうしようかと思ったが、もう避けられそうにない。
高さ的に、殴られるとしたら頭だろうから、なるべく頭を守って…
「…ぽへー」
「…へ?」
明らかに気の抜けた声とともに、急速に麻績から力が抜けた。とはいえ、速さは変わらないので、そのまま体当たりされる形になった。
鈴木の胸辺りに、麻績のひじ打ちがクリーンヒットする。
「いったい!」
ひじ打ちをしたことで勢いが収まった麻績は、その功労者である鈴木を巻き込むように地面に倒れた。
「この人の、鎖おっも!」
抱きついたような格好で倒れた事に気づいた鈴木は、
とりあえず麻績を起こすか仰向けにするかしようとその場から移動しようとしたが、麻績の鎖に阻まれる形で、それは叶わなかった。
顔をみると、先ほどとはうってかわり、明らかな寝顔になっている。今はきっと、正気だろうから起こそう!と鈴木は思った。
「ま、麻績さん、起きてください!」
「うーん」
やっと起きたか?と一瞬安堵したが。
麻績は先ほどよりもさらに強い力を込めて、鈴木の腕に抱きついてきた。
「痛い痛い!!腕とれる!」
「眠いー…」
先ほどの返事はただ寝ぼけていただけという事実に、鈴木は震え上がった。こうなってしまったからには、何とか麻績を押しのけながら、池田の到着を待つしかない。
「うー…」
麻績を必死に押しのけている内に、よく眠ってしまったのか何とか腕の痛みは抑える事が出来たが、今度は何だか気まずくなってきた。今まで特に意識はしていなかったが、しかし近い年の異性の先輩に抱きつかれているというのはどうにも…、その…、と鈴木は思った。
((・∀・)ニヤニヤ)
しばらく黙っていた黒眼はいまさら何かするかと思ったら、ただただ鈴木に追い打ちをかけてくる。
「早く、池田さん来てほしいなぁ…。」
ぼそっと口にしたその時、
「鈴木君!いますか!」
噂にすれば、暗がりの彼方から救世主の声が聞こえてきた。これでお先真っ暗もなくやっと一安心だ…。
「いたいた…!あなたが鈴木君ですね!」
え、だれ?
もうあとがきのネタがないです。
追記
時系列が飛び飛びですみませんね。前回までの魔王様の話は、この日からしばらく後の日の話だと言うことを踏まえろ(命令形)。




